冒頭、この文章から始まった調書は、検察と淳子被告のQ&A形式で読み進められていった。

―――誰に?

「直樹から、靖の遺体の前で『大久保が殺した』と言っていたので間違いない」

―――誰が最初に殺すと言った?

「直樹が大久保に『自分や母が靖のせいで苦しい』と言うと、大久保が『殺そう』と持ち掛けてきたと聞いている」

―――亡くなった日のことを教えてほしい

「私と直樹は、靖を退院させるために長野県内の病院へ行った」

―――本当に退院させるためだった?

「靖を連れ出す理屈だった。主治医に会うことなく連れ出し、新幹線に乗った。しかし、車内で靖の顔を見ると、『大久保に預けると殺されてしまう』と思うようになった。やめようと思い『病院に戻ろう』と直樹に言ったが、『大久保がそんなことできない』と引き下がれないと感じた。研修医の直樹は、厚労省の医系技官だった大久保には逆らえないのだと。駅につくと、大久保が大きな車で迎えに来ていた」

―――見送ったというが、どんなことが起きると思った?

「殺されると思ったのは事実です」

―――止めようとは?

「人を殺す大久保を怖いと思った一方で、これでラクになれるとも思った。殺してくれれば、介護せずにごくごく普通の生活に戻れると思った」

―――殺し方は?

「直樹を通じて、殺し方を聞いた。大久保は、『点滴を通じて薬液を入れれば、苦しませずに楽に死ねる』と言っていたという」

―――靖を見送ったあとは?

「直樹から携帯に連絡があり、現場のアパートへ行った。部屋には直樹だけがいた。座布団の上で、仰向けに動かず目を閉じる靖がいた。直樹が『もう死んでいる。大久保がやった』と言っていた。ただ部屋のどこにも点滴チューブが無かったので直樹に尋ねると、『大久保が持って帰った。さすが年数ある医者だけあって手早かった』と言っていて、なにかの薬液を入れたのは間違いない」

―――2010年にあなたが直樹に送ったメール《山頂のやつを早くあぼーんするのが今の願いや》。これはどういう意味なのか。

「これは『死んでほしい』と言う意味。『自然死してほしい』という意味でメールをした。死んでほしいのは私と直樹の一貫した思いだった。靖が延命することは耐えがたいと思っていた」