カスハラの3つの要件と正当なクレームとの違い

カスハラは、改正労推法第33条第1項において、次のとおり規定されている。

(改正労推法第33条第1項)
事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において「顧客等」という。)の言動であつて、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(以下この項及び次条第一項において「顧客等言動」という。)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

この条項を読み解くと、改正労推法上のカスハラとは、以下の3つの要件から構成されるものであることが分かる。

(1) 顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(顧客等)の言動であること
(2) 社会通念上許容される範囲を超えたものであること
(3) 労働者の就業環境が害されるものであること(注6)

まず、上記(1)の要件には「取引の相手方」が含まれていることに注意が必要である。つまり、カスハラで通常イメージされるBtoC(一般消費者向け取引)の場面だけでなく、BtoB(企業間取引)の場面でも、カスハラになり得るのである(自社の従業員が加害者になる場合もある)。

上記(2)の「社会通念上許容される範囲を超えたもの」という要件は、かなり抽象的で分かりづらい。

改正労推法を提案した厚生労働省(以下「厚労省」という。)の労働政策審議会(以下「労政審」という。)の建議を紐解くと、「権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・態様が相当でないもの」と説明されている(注7)。

要するに、顧客等の言動がカスハラに該当するか否かは、「内容」と「手段・態様」の2つの要素(相当性)で判断されることになるのである。

たとえば、どんなに正当な「内容」の要求であったとしても、謝罪に土下座を強要することは、「手段・態様」として相当なケースであるとはおよそ想定されない(つまり、カスハラに該当する)。

一方で、穏やかな「手段・態様」のクレームであったとしても、その「内容」が常識外れなもの(たとえば、駄菓子屋で酒類の提供を求めること)は、カスハラに該当する。とはいえ、なんでもかんでも「カスハラ」だと決めつけて消費者等の「正当なクレーム」までシャットアウトすることは、消費者等に対する権利侵害になりかねないことにも留意が必要だろう(注8)。

なお、上記(3)要件にいう「労働者」に関しては、改正労推法の附則において、特定受託事業者(フリーランス)の業務にかかる施策についても政府が検討すべき旨が謳われており、将来的には、会社の従業員だけでなく、同じ会社で働くフリーランスに対しても、次の「必要な措置」を講じることが求められるものと予想される。