ベネズエラ攻撃に見る外交の「行動原理」

本稿の趣旨は第二次トランプ政権の1年間を振り返ることだが、起きたできごとを振り返るとあっという間に紙幅が尽きてしまう。そこで、今回はこの1年間で見えてきた、政権の外交と内政、それぞれの「行動原理」を考えてみたい。

外交については、「行動原理」を端的に表す出来事が2026年冒頭から起こった。ベネズエラへの軍事攻撃、そしてマドゥロ大統領の拘束だ。

トランプ氏が公表したマドゥロ大統領の写真

トランプ政権の対外関与の判断の軸にあるのはシンプルに「アメリカファースト」。アメリカ(あるいはトランプ氏本人)の利益に関わることには積極的、時に攻撃的な一方、それ以外のことへの関与は縮小する、という姿勢だ。ベネズエラへの軍事介入はそうしたトランプ政権の「外交」の典型と言える。

ベネズエラはトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」がある南部フロリダ州から海を隔てて2000キロあまり。フロリダから見た場合、3500キロあまり離れたカリフォルニアの方が圧倒的に遠い。アメリカで中米諸国が「裏庭」に例えられるゆえんだ。

その「裏庭」にありながらベネズエラは反米左派が長年にわたって政権を握り、アメリカと敵対する中国やロシアとの関係を深めてきた。

かつてアメリカが投資して築き上げた石油インフラも反米政権が接収。圧政から逃れた人々がアメリカに移民として流入する事態も起きている。トランプ政権から見れば、「アメリカの利益を損なう」存在だ。

だとすれば、アメリカの強大な「力」により、状況を変えてしまえばいい――。トランプ政権の考え方は、このように極めてシンプルなものだ。

今回、ベネズエラへの介入を通じてトランプ政権が狙った成果は、以下の2点に集約される。

(1)反米政権の転覆
マドゥロ氏の拘束後、「国をアメリカが運営する」として、前副大統領が率いる暫定政権に強い2度目の攻撃もちらつかせて、服従を迫る。中国・ロシアとの経済関係も断絶させる。

(2)石油利権の掌握
世界最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラの石油インフラの立て直しを米企業主導で実施。石油の販売はアメリカが管理する形にするとして、中国から石油利権を奪い返す。収益もアメリカに還流するシステムを構築。

他方、これまでアメリカが他国に介入する際に建前であっても掲げてきた「民主化」といった目標は、今回、まったく前面に出てきていない。トランプ政権はマドゥロ体制の温存を容認し、マドゥロ政権の副大統領で、石油相を兼務していた大統領代行のロドリゲス氏を通じてベネズエラを「運営」しようとしている。

一方、ノーベル平和賞を受賞した反体制派の指導者・マチャド氏について、トランプ氏は「人気がない」などと述べ、連携に後ろ向きだ。反体制派にはベネズエラの石油産業や治安機関をグリップする力がなく、連携に「実利」が見出しづらいことが大きな理由とみられている。

改めて、「アメリカファーストの外交」を身も蓋もない表現で言えば、「世界最大の軍事力と経済力を背景に、2国間の関係の中で他国を屈服させて、自国の利益にする」ということだ。「小国であろうと、主権国家は大国と対等に扱う」というような発想はそこには存在しない。

今回の介入については「国際法違反だ」との批判が各国から上がっているが、トランプ氏の最側近の1人、スティーブン・ミラー次席補佐官はCNNテレビの出演でこう言い切った。

「国際法は“礼儀”だ。リアルな世界では力・武力・権力によって支配されている。これが世界の鉄則だ」

スティーブン・ミラー 大統領次席補佐官

今のトランプ政権に、第二次大戦後、法の支配や民主主義の価値観を広めてきたアメリカの姿を見るべきではないことは、この発言だけでも明らかだろう。