2025年は放送開始から100年目であった。その節目の年に、フジテレビ問題で放送界に激震が走った。さらに2024年の選挙報道に対する反省の上に立った選挙報道の改革も進んだ。それらの動きを振り返り、放送と通信の融合がますます進化することなどが予想される2026年を展望する。上智大学・音好宏教授の論考。

スタートから100年目を迎えた日本の「放送」

2025年は、放送にとって節目の年であり、また、激動の年でもあった。

日本で放送がスタートしたのは、1925年3月22日。社団法人東京放送局(JOAK)の開局で始まる。昨年は、それからちょうど100年目であった。

JOAKの初代総裁を務めた後藤新平は、開局式の挨拶で放送事業に関する4つの職能として、「文化の機会均等」、「家庭生活の革新」、「教育の社会化」、「経済機能の敏活」の4つを挙げている。この年、日本で普通選挙法が制定され、全ての成人男子に政治参加が認められた。機を一にして、放送は全ての人にその便益を享受することが示された。

言わば、放送という新たなサービスにより、全ての人々の社会生活をより豊かにする可能性を予見し、それゆえに放送サービスには公共性・公益性が求められると認識していたのである。

新しいものが好きで、「大風呂敷」というあだ名があるようにスケールの大きな話を好んだとされる後藤は、放送という新しい事業に強く惹かれていたし、また、その事業への意気込みも強かったのであろう。当時の新聞は、開局式での後藤の姿を「反り身の演説」と、その緊張ぐあいを報じている。

問われた放送局のガバナンス

さて、この日本最初の放送から100年目の2025年は、後藤が示した放送の公共性・公益性に基づく放送への信頼を揺るがす事態からスタートした。フジテレビ問題である。

複数のテレビ番組にレギュラー出演をしていた人気タレントの中居正広氏が、フジテレビの女性アナウンサーに対して性的暴行を行ったとする疑惑を、2024年末に一部週刊誌が報道。

それを受ける形で開かれた1月17日のフジテレビの社長会見には、記者クラブ加盟の記者のみに参加が許され、しかも、映像取材を禁ずるという日ごろ取材対象者にオープンな取材を求めている報道機関としては考えられない、後ろ向きの姿勢であった。

このフジテレビの対応には、内外から激しい非難が巻き起こり、1月27日にフジテレビは、再度会見を行い、経営トップが会社全体のガバナンスを機能させることができなかったことを踏まえて、フジテレビの代表権を持つ嘉納修治会長、港浩一社長の辞任を発表するとともに、本件の調査にあたっては、日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに基づく第三者委員会を立ち上げたことを発表した。

この間、フジテレビにCM出稿をしていたスポンサーによるCMの見合わせ、差し替え要請が相次ぐことになる。在京民放キー局において、大規模なCM出稿の取りやめが起こったことはこれまでになかったことであり、民放局の経営基盤そのものを揺るがす事態であった。フジテレビを傘下に置く認定放送会社のフジ・メディア・ホールディングス(FMH)は上場企業であり、そのコーポレート・ガバナンスが内外から非難されることになる。

調査にあたった第三者委員会は、3月31日に報告書を公表。その内容は、当該事案が人権侵害にあたるハラスメント事案であったと結論づけるとともに、調査で明らかになったフジテレビ社内で起こっていた他のハラスメント事案についても言及し、それらに対処できなかったフジテレビのガバナンスの欠如を問題とした。この報告書によって、1月から始まったスポンサーによるフジテレビへのCMの見合わせは続くことになる。

他方で、このフジテレビ問題に関しては、放送局の信頼を損ねるものとして、会期中の国会でもたびたび取り上げられ、与野党からフジテレビ、ひいては、放送事業全体のガバナンスに対する厳しい声が相次いだ。

特に今回のフジテレビ問題は、民放連会長社で起こった事案でもあり、業界団体である民放連の向きあいも問われることとなった。そのようななかで、総務省は「放送事業者におけるガバナンス確保に関する検討会」を設置。放送事業者のガバナンスのあり方について検討されることとなる。この検討会で焦点となったのは、放送事業者による自律性を最大限尊重しつつ、ガバナンスの確保することにあった。

この問題は、2026年まで後を引くことになる。民放連は、2026年1月に、定款変更を行うとともに、「民間放送ガバナンス指針」を策定。4月から第3者を交えたガバナンス検討審議会など、ガバナンスの強化策を示すことになる。

他方で総務省は、前述のガバナンス確保に関する検討会を発展させる形で、円卓会議を設置して、放送界の自律的なガバナンス確保が適正に進められているかを確認する形となる。

この件については、放送事業者個社のガバナンス強化が図られていくのか、民放連、総務省が示した枠組みが上手く機能していくのか。今後の成り行きが注目されよう。