自分が悲しいことを「見てしまうと多分進めない」

伸子さんは、亡くなったクリニックの院長 西澤弘太郎さん(当時49歳)の5歳下の妹。小さい頃はケンカもあったが、兄は基本的にクールで優しかったという。
事件後は、兄を慕い、行き場を無くしているクリニックの患者のため「自分にできることは何か」を模索し、患者たちが話し合うオンラインサロンのことを知って、自分も参加を申し出ていたそうだ。
3月末、伸子さんに初めてお会いした。自分自身の状態をこうとらえていた。
「自分が悲しいっていうことを多分見つめてないんだと思う、見てしまうと多分、止まってしまうというか。進めないような気がしてる。おそらくそこは、…見ずに生活してると思うんです。もっと患者さんのことを、って考えることで、自分がもしかしたら救われてるのかなって」
少し違和感も覚えた、伸子さんの気丈なふるまいは、自分自身を守るためのものだったことを知った。
同じころ、私たちは、西澤院長にカウンセリングを教えていた「恩師」心理士の土田くみさんも取材していた。私は、何か伸子さんのヒントになればと思い、土田さんを紹介し、会う機会を設けた。
5月、大阪市内のカフェ。
伸子さん「素人の私が、患者さんに寄り添うことってしていいのかとか、やれるのかなっていうところが…」
土田さん「西澤先生の妹さんとしていらっしゃるだけで、皆さん救われると思いますよ。自分たちの中に入ってくれたってだけでそれが誠意というか、患者さんも救われてると思う」
包み込むような土田さんの言葉。伸子さんの目には涙があふれていた。