国内初のブラックアウトを起こした、2018年9月の北海道胆振東部地震。
 震源に近い厚真町は最大震度7に見舞われ、大規模な土砂崩れなどで町民37人が犠牲になりました。そのうちの1人、山口サダ子さん(当時81)は、地震から12日後、避難所で倒れそのまま息を引き取りました。災害関連死でした。
 地震から5年。サダ子さんの夫、清光さん(86)の姿を通し、繰り返し語った「助かったはずの命」の重さと、残された教訓を見つめます。

奇跡的に助かったはずだった

自宅の花を見つめる山口清光さん(2023年9月)

 コスモスの奥に見えた、小さな窓。
 今年9月、山口清光さん(86)は、訪ねてきた私を見つけると「おーい、こっちだよ!」と、出迎えてくれました。
 清光さんと出会ったのは5年前。私が記者になって1年目のときでした。
 「家に上がんな。ほら、ここにいるんだよ」
 案内してくれたのは、亡くなった妻、サダ子さんの仏壇です。

山口清光さんの妻サダ子さん

 清光さんとサダ子さんは、旅行はもちろん、タバコを買いに出る時でさえも一緒の「おしどり夫婦」でした。そんな2人の58年間の夫婦生活を終わらせたのが、胆振東部地震です。

 2018年9月6日。当時2人とも81歳で、厚真町冨里地区に住んでいました。
 「ダダダダーンと。2人でベッドの上にいて、家内を抱きしめて、上から物が落ちてきて。一瞬の出来事だ」(清光さん)
 外に出て2人が目にしたのは、裏山の木が足元に横たわる異常な光景でした。裏山は崩落したものの、住宅への土砂の直撃はなんとか免れました。2人とも無事だったことを清光さんは「奇跡」だったといいます。
 その後2人は、避難所に身を寄せました。