「助かる見込みはありません」──非情な宣告

 「助かる見込みはありません」。医師からの説明は非情な宣告だった。

(酒井肇さん)
「気持ちが動転していましたから、その時の様子を細かく思い出すことはできません。しかし担当医から、しっかりとした口調で『麻希はもう戻ってこない』ということを言われたように思います」

 説明を受けた後、再び心臓マッサージを受けている麻希さんに目をやった。小さな体が冷えていて、もう麻希さんの姿が痛々しくてならなかった。言葉にできない思いとともに「ありがとうございました」と医師に告げた。2001年6月8日12時32分のことだった。

 麻希さんの髪の毛には砂のようなものが付着していた。指の爪の中には血液交じりの砂が入っていた。それを見て「きれいにしてやってください」と看護師にお願いしたことを覚えている。少しでもきれいにして家に帰してやりたい―。看護師は頷き、麻希さんを別の部屋に連れていった。