なぜ報道陣は私より先に病院にいる?

その頃、酒井さんは会社で仕事をしていた。仕事を途中で切り上げ、急いで病院へと向かうが、先に病院に着いた妻からかかってきた電話に驚愕した。
「麻希が大変なことになっている。」
(酒井肇さん)
「私はもう電車に座っていられなくなって、車両の中をうろうろして『麻希、死ぬんじゃないよ。頑張れ、頑張れ』と心の中でずっと叫んでいました」
地下鉄が新大阪を過ぎた頃、電車の速度がすごく遅く感じられ、いても立ってもいられなくなったので、途中の江坂駅で降り、タクシーに乗り換えて阪大病院に向かった。
病院にはおびただしい数の報道陣がいた。酒井さんは「臓器移植の取材に来ている報道陣」だと思ったという。阪大病院は臓器移植で有名だったため、事件とは全く関係のない報道陣だと思っていたのだ、というのも…。
(酒井肇さん)
「私は家内と連絡を取り合って、誰よりも早く病院に着いたという思いがありました。だから、まさかそこに今回の事件の報道陣がすでに集まっているとは思いもつきませんでした」
救急部に行って「こちらに搬送された酒井麻希の父親です」と言うと、看護師の顔色がサッと変わった。酒井さんは「ダメなのか」と直感した。
処置室に入ると、もう麻希さんの顔は土色に変わっていて、妻が横で「頑張れ、頑張れ」と叫んでいる状態だった。














