「麻希は?」──搬送先がわからない恐怖

 そのとき「父兄は体育館の方に来てください」という声が聞こえた。妻は報道の垣根をかき分け、規制テープをくぐって中に入った。

 体育館で「けがをした方の名前を呼びますから前に出てください」と言われ、一番前の方に移動した。そこで「酒井麻希」と名前が呼ばれたのだ。次に「搬送先の病院を言いますので」と言われ、順々に名前と病院名が発表されていった。しかし、最後になっても麻希さんの搬送先は言われなかった。

『麻希は?』と尋ねると、『どこの病院に行ったか分からない』というのである。

 妻は、携帯電話で酒井さんに連絡を取ろうとした。しかし、取材ヘリコプターの爆音で、相手の声が全く聞こえなかった。そうこうするうちに「搬送先が分かりました」という人が現れた。近づいていくと、その人が手に持っているメモが真っ先に目に入った。「酒井麻希 重体」──頭が真っ白になった。搬送先は大阪大学医学部附属病院だった。