■受刑者の憧れ 塀のない刑務所に行けるのは“エリート”


松山刑務所では大井造船作業場への希望者が引きも切らない。

金属工場では、造船所と同様に金属を扱う訓練が行われている。作業の開始時と終了時に凶器にもなりうる工具が入念に点検される。全員が造船所と同じ動きで統一されている。          

金属工場での訓練に耐えた者だけが造船所に行けるかどうかの面接を受ける事が出来る。 

刑務所の幹部からは逃走を懸念する質問が相次ぐ。


刑務所幹部
「どうして厳しい大井造船作業場に行きたいの?理由を教えて」

受刑者
「行きたい理由として一番大きいのは、純粋に1日でも早く社会復帰がしたい」

別の刑務所幹部
「共犯者も地元の君の友達、同級生がたくさんいるという話だが」

別の刑務所幹部
「大井(造船作業場)で逃走事件があったのを知っているか。あなたはそのニュースを聞いてどう思った?」

受刑者
「率直になぜその人は逃げることになったのかなと思いました。積み上げてきた信用・信頼をなくしたのかと考えました」


大井造船作業場で働けば、早い者で刑期の3分の2で仮釈放となる。

面接を受けた受刑者
「緊張はしたんですが、気持ちが伝わっていればいいなと思います。本音を言えば、仮釈放は行きたい大きな理由の一つになっています。大井造船作業場に行けば、社会を近くに感じられる。そういう意味では、とても前向きに現状を捉えています」


松山刑務所では造船所で働く受刑者はあこがれの的だと言う。

受刑者
「何百人の中の一握りなので、そこに行くのは目標の一つ」

松山刑務所の受刑者
「厳しい訓練のなかで選ばれたんエリートという呼ばれ方をします」


■「信用したいが・・・」開放処遇の意義と今後


しかし逃走事件と開放処遇の狭間で、刑務所側のジレンマは続く。


松山刑務所 石榑宏成 所長
「信用してあげないとはわかっているんですけど、どこか裏切られるという気持ちは持っていますからね、私自身もですね。選んでくれた人たちの期待を裏切るなよ、という気持ちで話はしているつもりですけれども、正直どこまで響いているかはわかりません。これはもう私たちの永遠のテーマです」


4年前の逃走事件後、改善策として大井造船作業場の受刑者も週末は本所・松山刑務所に戻される様になった。

受刑者
「鉄格子や不自由な生活など、ここに帰ってくるたびに私は受刑者だという自覚を再度認識できる」


再犯防止の観点からも、今後開放処遇は進めていくべきだとの意見が多い。        


藤本哲也最高検参与・矯正協会長
「刑務所のような閉鎖施設に閉じ込めておいて、全て命令で動くというのではなくて、自主的に自分から何かをするっていうのが、この開放処遇の特徴なんですよ。ある意味では(開放処遇は)施設内処遇から社会への橋渡しというか、ひとつのワンステップを置くという重要なポジションにある。これは世界の趨勢」


この日も男達が作業場に向かう。“塀の無い刑務所”の出所者が再犯したとの情報はこれまで入っていない。