■塀のない刑務所で脱走 背景に“つるし上げ”の“伝統”

                       
しかしそれを根底から揺るがす事件が起きた。       
2018年4月、1人の受刑者が“塀のない刑務所”から逃走した。“脱獄”である。                      
受刑者は大規模な捜索を振り切り、尾道水道を泳いで本州に渡り、3週間も逃走を続けた。原因は刑務所側も直接は介入できない友愛寮の“反省会”にあった。


反省会は受刑者が自分たちで組織する“自治会”が取り仕切っていた。半ば“つるし上げ”の反省会は“伝統”として受け継がれ、これが4年前の逃走事件の原因だった。          

自主性を尊重する余り自治会の権限が異常なまでに強化されてしまったのだ。先輩受刑者が後輩を指導する場面では上下関係が一段と強まっていった事が窺える。
                           
反省会に耐えられず自ら希望して本所・松山刑務所に戻った受刑者もいた。  

希望して松山刑務所に戻った受刑者
「初めて行ったときは驚きました、本当に。なんで同じ受刑者にそこまで言われるのかと。もう一度行きたいとは思わないですね」


4年前の逃走事件で“塀のない刑務所”は閉鎖の危機に陥った。しかし、周辺住民などの支援でどうにか存続することになった。

再出発後は至る所に監視カメラが設置され警備が厳重な施設になってしまった。                          

松山刑務所・大井造船作業場 蓮池茂夫 場長
「逃走以前は(窓は)全開できるようになっていました。窓ガラスには防犯フィルムを貼ってガラスが割れないようにしています」


今や受刑者が造船所を走り回る姿もなくなった。       

松山刑務所・大井造船作業場 蓮池茂夫 場長
「やっぱり走られるといかに行進のための駆け足だとしてもちょっとドキッとするようなところはあります」


そして、問題の“自治会”は完全に消滅した。


松山刑務所・大井造船作業場 蓮池茂夫 場長
「先に来たものが偉くなる事はない。本来なら受刑者は同じ立場。早く来ようが後に来ようが同じ立場であるはず」

“塀のない刑務所”が開設されて60年。これまでも何回か逃走事件が発生しているが、造船所近くに潜んでいるところを直ぐに捕まっている。

周辺の住民からは、意外と冷静な反応が返ってくる。      

記者
「この前の脱獄は相当な騒動になったんじゃないですか?」

造船所周辺の住民
「いや、ならないよ、ここの近所では」

「特に不安ではないです」

「僕は構わないと思うよ。やっぱり、それで更生してくれるんだったら」

「社会復帰の練習にはいんじゃない?刑務所の中よりは。塀のない刑務所だからね」