文化の違いを丁寧に描いた「ベトナムのひびき」
倉田 「ベトナムのひびき」(NHK)がよかったです。私はクラシック音楽担当の記者もしていたので、クラシックを取り上げるドラマはもともと好きなんです。
長く続いた戦争の影響が残り、運営もうまくいっていないベトナムの国立オーケストラに日本人指揮者が指導に行って、楽団員といろいろトラブルがありつつも立て直しに貢献するという美しいお話です。
楽団ができたのが1960年頃で、ベトナムの一般の方はクラシックにあまりなじみがない。そんな中でも音楽を志す若い楽団員がいるけれど、練習すらなかなかできないという現実が立ちはだかる。
楽団員は給料が安いのでアルバイトをしたり、病気の子どもの治療費を稼がなくてはならなかったり、いろいろな困難を抱えながらも、それでも音楽をやりたいって、どれだけ音楽を愛しているんだろうと、その情熱に心を打たれました。
また、指揮者と楽団員との間で心のすれ違いがあったり、そもそも日本人とベトナム人とで習慣や文化が違うところからトラブルや誤解が生まれます。
今、ベトナムを初め外国人の労働者がどんどん日本に入ってきています。コンビニなどで接する中で、やはり日本人の店員さんと対応が違うと感じることはもちろんあります。でもコンビニの店員さんとは深く話す機会がないからわからないだけで、彼らは彼らなりの習慣や文化でそうやっているんだろうなと、私の日常生活にも直結している話でもあると感じました。
クラシックファンとして、おおっと思ったのが、濱田岳さん演じる主人公のライバルの指揮者を反田恭平さんというピアニストが演じているんです。反田さんは2021年のショパン国際ピアノコンクールで日本人最高位の2位になられた方ですけれど、えっ、反田さんが演技してる!と釘づけになりました。
音楽をやるためには平和が必要なんだと感じたのが一番ですけれど、私たちもコロナ禍で、エンターテインメントを楽しめない時期がありましたよね。そういう経験をしたからこそ、日常で好きなエンタメを楽しめることの重要性が理解できましたし、好きなものを楽しめる世の中であり続けてほしいと感じました。
田幸 ベトナムと日本の文化の違い、そして交流が丁寧に描かれていました。今、世の中が排外主義に動いているところがあって、危ないなと個人的に思っています。外国の人が怖かったりする人もいると思うんですが、それは知らないからこそなので、海外の文化や風土を知る機会になる作品、「東京サラダボウル」(2025・NHK)がまさにそうでしたが、こういう作品をどんどん作ってほしいと思います。