意外な展開だった「母の待つ里」
倉田 「母の待つ里」(NHK)が刺さりました。浅田次郎さんの原作も読まず、事前情報も入れずに、中井貴一さん演じる会社の社長が田舎のお母さんに会いに行くストーリーだと思って見始めたんです。
一昔前のステレオタイプな田舎が舞台だなと感じながらも、なんか変な違和感がある。何よりもまず、宮本信子さん演じる母親の名前を中井さんがわからないのはなぜなんだろうとか。
ひょっとしてミステリードラマなのかと思いながら見ていくと、実は宮本さんは本当のお母さんではなく、訪ねた田舎も本当の自分の故郷ではない。「親元に帰省する」というカード会社のとても高価なサービスプランでの疑似体験だということが分かる。
中井さんや松嶋菜々子さんが、子どもとして宮本さんと疑似親子を演じていて、嘘の関係なんだけど本当の親子にすらないような心の交流が生まれるところに感動しました。
実の親子だとつい厳しくなって、親にきついことを言ってしまったりします。言いたいことを言えるのはある意味いい親子関係かもしれませんが、実の親子じゃないのに実の親子らしいものが生まれることもあるんだという気づきを与えてくれた作品でした。
ロケの場所は岩手県ですよね。美しい風景がちゃんと残っている。そういう風景を守っていきたいと思いつつも、そこにはまた過疎など別の問題も出てきて、社会のいろんな問題まで考えることができました。
田幸 私も原作を読まずに見始めました。温かなふるさとを描いているようでいて違和感がずっとある。中井さんが若年性認知症の役を演じた「記憶」(2018・フジ)というドラマを見ていたこともあって「お母さんに名前を尋ねるって、もしかして…」と考えちゃったぐらい、真相がなかなかわかりませんでした。
こういうサービスっていいなと思った反面、そのサービスを考えているのがアメリカのカード会社というところが皮肉でしたね。
影山 僕はもう父も母も見送っているので、この作品を見て感じるのは、やはり「もっと優しくすればよかった」です。実の親に対しては、つい厳しく当たってしまう。そういう後悔の念が何年もさかのぼってふつふつと出てきます。
また、子ども役を中井さんと佐々木蔵之介さんの二人だけにするとマザコン男の物語になりかねないところに松嶋さんを入れている。これは原作のうまさであり、それを反映させたドラマのうまさでした。
登場する村人たちがしっかりとお芝居をすると言いながら、あちこちに穴があるというのかな、だからこそ引きつけられるということで、あえて穴をつくっているんでしょう。伊武雅刀さんが、ポンと振られたらしゃべれなくなるとか、あのシーンよかったですね。
笑えて、深く考えさせられて、ほろっとさせる浅田ワールド。そのいいところをしっかり生かした勝利だと思います。