2025年7月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。
本当はしあわせじゃない?「しあわせな結婚」
影山 「しあわせな結婚」(テレ朝)からいきましょう。脚本の大石静さんはこの作品について「完全なホームドラマにしたかったけど、テレ朝さんはサスペンスが好きなのでサスペンスもちょっと入れました」と言っているんです。どれぐらい本音かわかりませんが、サスペンスとしてもすばらしい。
真犯人は誰なのか、家族の中にいるのかが大きな幹としてありつつ、ホームドラマとしてしっかり辛口に、時には存分に遊んでいる。ホームドラマとサスペンスをよくぞ同居させたなと思います。
特筆すべきは阿部サダヲさんです。今回は丸々二枚目路線ですよね。
田幸 そうですね。
影山 全然コメディ路線じゃない。敏腕弁護士で、テレビのコメンテーターとしても売れっ子で、しかも決しておもしろ弁護士ということでもない。むしろ三枚目的な役割は松たか子さんが担っていました。
パンのCMをやっていながら、あんなクロワッサンの食べ方をしていいのかとか、あんな寝相でいいのかとか、かなり遊んでいる部分も大石ワールドで、存分に楽しませて頂きました。
結末についてですが、ある記者が放送前に「『しあわせな結婚』ですから、最後は幸せになるんですか」と聞いたんです。そうしたら大石さんは「いやいや、『しあわせな結婚』で、そのまま幸せにはなりませんよ」と言い切りました。
でも、最終回をただ普通に見ていたら「幸せな結婚じゃないか」と思うんです。しかしよくよく見るとそうではない。見ていてまだそこに気づいていない方は、どうぞラストの数分をもう一度ご覧下さい。幸せな結婚じゃないかもしれないところが深かったと思います。
田幸 最初から「何だ、この不穏な空気は」という感じでした。松さんが魅力的なんですけど、わけのわからない不気味さ、怖さもはらんでいて引きつけられました。
ミステリーを軸としつつのホームドラマ。大石さんの意図が正解だったと思うのは、SNSの反応を見ていると、ミステリー要素が強めになると見ている側は長いと感じるんですね。家族のかけ合いの方を見ていたいという声が多くて、それが今のドラマに求められているものなのかと感じました。
謎解きは、真ん中を貫いているようでいながらメインじゃない。あくまで家族とか、人が人を思う気持ちをメインにしているのが、うまいバランスでした。
影山 確かにそうですね。
田幸 「ライオンの隠れ家」(2024・TBS)も、もともと考えていたものにミステリー要素を加えた方がいいと言われて、ああなったとプロデューサーが言っていました。ここのバランスは難しいです。ミステリーに走る方が楽なところもあるので、「ライオンの隠れ家」と同じく、そこを見失わずにちゃんと人間ドラマを貫いたのが「しあわせな結婚」のうまさでした。