奈良橋:いろんな生徒さんがいらっしゃる中でも、葵ちゃんは、すごく繊細だけど、「明確」な何かがあったの。卒業公演の時も、すごく良かった。ハキハキとしているのと同時に、繊細で、ユニークで。すごくすてきなものを持っていました。

奥山:ありがとうございます。

奈良橋:なので、『Giri / Haji』の話が来た時には、疑いもなくすぐに「葵ちゃんだ!」と思いました。それでオーディションで私がすごくうれしかったのは、「これは勝ったな」と思った時。オーディションで(窪塚(洋介)いらっしゃった時に、(台本に)トランプが出てくるシーンで、実際に葵ちゃんが自分で持ってきたトランプを出して、遊び始めたんです。もう、これは最高と思いました。

奥山:今でも家にあるんです、そのトランプ。

奈良橋:ははは、そうなのね! その時の葵ちゃんがすごかったのは、これは我々の世界では「アクティビティ」とも言うのですが、人間って誰かと面と向かって話しているときでも、いつも絶えず何かやっているんですよね。なので、アクティビティがあると、ちゃんとリアリティーがある。葵ちゃんはすごく想像力が豊かで、それを見せかけではなくて、丁寧にやっていたんです。それが印象に残っています。

奥山:ああ、うれしいです。トランプはオーディションの時に買ったんです。本当にその時が初めてのオーディションだったので、もういっぱいいっぱいで。台本を読むのも初めてだったので、やれることは全部やろうって。「トランプって書いてあるから、トランプをやろう」と思ったのを覚えていますね。

奈良橋:そうやってアクティビティとして何かをするのは、すごく良いことなんです。要は“演技”をしないので。そのリアリティーは、すごく外国では大事にされています。私は何も言わなかったのですが、葵ちゃんはトランプを持ってきた。そしてそこで、本当に受かっちゃった。だから、葵ちゃんが1番最初にシンプルにそれをしたということが、すごく大事だなって。大袈裟でもなくて、本当に自分の想像力を使ってしていたんです。

奥山:今、そのお話を聞けてよかったです。それはアップスで学んだことでもあったので、私にとっても、すごく大きかったと思いますね。アップスでは本当にいろんな方に助けてもらいました。陽子さんからは、いつもオーディションや演技のフィードバックを頂いて、尊敬している方からそうやって評価していただくのは、本当にうれしくてありがたいです。

「観客が字幕を読むようになった」 日本人俳優が世界で活躍する理由

奈良橋:海外でも通用するという意味で大事なのは、葵ちゃんはもう天性だと思うのですが、嘘をつけない。けど、想像力はたくさんある。ちゃんと、自分の中にあるものと結びつけているんですよね。シンプルでありながら、ひたすらそれをちゃんとすることが、1番演技とも結びつくので。だから海外でも、自然と通用するんですよね。

奥山:最近は、気づいたら海外に進出している日本の俳優さんも多いですよね。私は、海外にも通用するということは、「枠がない」ということかなと思っています。枠がなければ、日本とか海外とか関係なく、どこでもやっていける。同じ人間として、同じ土俵でお芝居ができると思います。私は、初めての仕事が海外の仕事で、そこまで“海外”というワードが特別ではないかもしれないです。お芝居が楽しいから、いろんな人の、いろんな感情を使えるのは、どこの国のどんな作品でもいいかなって思います。

奈良橋:そうですよね。葵ちゃんの『Giri / Haji』の演技はとても評価が高くて、いろんな人から、すごく言われました。葵ちゃんは、やっぱり映像に向いているなと思いますね。あとは、ここ数年で、実はすごく変化していることがあります。例えば韓国の映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督、2019年)が大ヒットしましたが、そういうこときっかけで、アメリカの観客が字幕を読むようになったんです。前は字幕を読むことはあまりなかったので、いつも英語ができる俳優しか選べませんでした。

でも、今はだいぶ楽になってきて、『SHOGUN 将軍』(2024年)もそうですが、かなり日本語も使えるようになりました。今、『Giri / Haji』でも葵ちゃんと共演した、日本とイギリスのルーツを持つウィル(シャープ)さんという俳優さんが手がけている作品も、日本語は全然OK。英語ができないからだめかな、ということがなくなったのは、大きな変化ですね。

奥山:ウィルはもう、本当に楽しそうにお芝居しますからね。最高です!

奈良橋:そうそう。“He is very funny! (彼はすごく面白い人よ)” イギリスでもどんどん評価されていますよね。そういう意味でも、日本人にとっては、今がチャンスですね。