「11年のテグ世界陸上で、給水所毎にエチオピアやケニアの選手がペースを上げて給水を取っていたことを、伊藤は揺さぶられたと感じてしまったんです(22位)。給水が終わったらペースが落ち着くのに、緊張をしていると揺さぶりに感じてしまう。4年後の北京では給水の上げ下げを気にせず自分のペースで走って、場合によっては先頭に出てもいいよ、とアドバイスをして送り出しました。今回小林には、5月くらいにそれを伝えました。情報をたくさん与えるより重要な情報に絞って、早めにインプットさせた方が心の準備ができます。小林の練習を1年ちょっと見てきて、試合結果も見た中で、世界陸上で単独走になっても自分のペースで押し切る力は十分あると判断できていました」
レース中に単独走になったとき、特別なことをしている意識になると動きに力みが出て、後半の失速につながる。その点、元市民ランナーの小林は、単独走に慣れていた。レース中の走りと同じではないが、ジョグであれば何時間でも走ることができた。ジョグをしている最中は「ボーッとできる」と、リラックスタイムになっている。
小林は外国人選手の情報も、誰が速いタイムを持っていて、誰が世界大会の実績があるかなど、ほとんどインプットしなかった。
「国内レースは(強豪選手の情報が)自然と入ってきますが、海外選手の実績は、調べに行かないと出てきません。私は他の人に興味を持つことより、自分が走ることが好きなんだと思います」
大塚製薬チームの過去の世界陸上の経験と、小林の2年前まで市民ランナーだった特性が噛み合って、大舞台をマイペースで走ることができた。