習主席のメッセージが意味するもの

一見すると、習主席は「抗日」を強調し、日本に強い態度を示したようにも思えます。しかし、私は習主席が「その後の部分」を強調したかったのではないかと見ています。

習主席は、その発言に続けて「今日の若者は革命の伝統を受け継ぎ、強い国家建設に向けた遠大な志を育んでいただきたい。誇り高き中国人として、民族の復興という時代の責任を勇敢に担うべきです」と述べました。

日本との戦争終結から80年という節目において、過去の歴史問題で日本を牽制しつつも、日本に歴史問題を強く突きつける方針ではない気がします。言い換えれば、盧溝橋にある抗日戦争記念館に要人が足を運ぶのは、「日本との戦争に勝利した」という中国共産党の存在意義、すなわち正統性を内外に示すために欠かせないことです。

しかし、トップの習主席は、この7月7日に首都・北京を離れて地方を視察することで、日中関係において敏感な場所である盧溝橋に行かない理由を作ったのではないでしょうか。

むしろ、習主席は国内に目を向け、引き締めを優先しているように感じます。先ほどのスピーチも、共産党という国民を統治していく上での支柱への結束力を、次の世代を担う若者に向け、「民族復興」「強国建設」という言葉で強調しているように見えます。

米中関係の不透明さが日本への「軟」に繋がる

「日本との戦争に勝利してから80年という節目の夏」は、中国にとって歴史問題を振りかざし、日本へ圧力をかけるチャンスとも思えます。それなのに、なぜ強硬姿勢を控えているのでしょうか。

最大の理由は、やはりトランプ大統領のアメリカとの外交が先行き不透明であることが挙げられます。最大の懸念である関税交渉は、米中双方が24%分の高い関税を止める期間をさらに90日間延長することで、7月29日に合意しました。

そんな中で、中国は日本に対して関係安定化に向けて様々なメッセージを送り続けています。習近平主席の側近として知られる何立峰副首相が7月に来日しましたが、これは大阪・関西万博での中国ナショナルデーのイベントに参加するためでした。

何副首相はアメリカとの関税協議の中国側代表も務めており、アメリカ、中国、日本のトライアングル関係と関連付けて人選し、日本に要人を送り込んでいるのではないでしょうか。

また、福島第1原発の処理水海洋放出に伴い、中国が停止していた日本産水産物の輸入も、約1年10か月ぶりに再開されました。日中間の「トゲ」の一つだった、大手製薬会社の日本人男性社員が「スパイ行為をした」として長期にわたり身柄を拘束されていた事件も、男性が懲役3年6か月の判決を受けた後に控訴しなかったことで、今後は釈放に向けて水面下の交渉が行われていくでしょう。

不本意な事件ではありますが、控訴しなかったのは、刑期満了前に釈放という「実」を取るためでしょう。そうなれば、関係改善の一歩になるはずです。