■激化する”制脳権”争い ディープフェイク動画も拡散
3月中旬、ロシアとウクライナの戦闘が激しさを増す中、1本の動画がSNS上で拡散し波紋を広げた。ゼレンスキー大統領がウクライナ兵に投降を呼びかけるものだった。
「私は大統領を続けるのは簡単ではないと感じている。ウクライナ兵の皆さんは武器を置いて家族のもとに帰ることを勧めます」ゼレンスキー大統領がこう呼びかけた動画だ。しかし、この動画はAIを使って作られたディープフェイク動画と見られ、フェイスブックを運営するメタ社はすぐにこのニセ動画を削除した。
ウクライナ側の士気の低下に繋がりかねない事態に、本物のゼレンスキー大統領はすぐさまスマートフォンで撮影した”自撮り動画”を自身のSNSに上げ「私たちは領土、子ども、家族を守っているので武器を置くつもりはありません。勝利するまで」と呼びかけた。
戦前の予想に反し、ウクライナが善戦している背景にはゼレンスキー大統領のSNS戦略もある。600万人近いツイッターのフォロワーを持つゼレンスキー大統領が連日、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなど多くのSNSを活用し、国内の惨状や国内に留まり指揮を執る自身の姿を発信することで、士気を高め支援の輪を広げることに成功しているからだ。
まさに今、SNSを通じた情報戦、「認知空間」が第6の戦場としての存在感を高めている。フェイクニュースを信じ込ませるのか、フェイクニュースを阻止するのか、ここでの勝敗が戦況に大きな影響を与えるようになっている。
■フェイクニュースが変えた戦況
フェイクニュースが戦況を大きく変えたこともある。イラクによるクウェート侵攻をきっかけに、1991年1月に幕を開けた湾岸戦争では、ペルシャ湾に大量の重油が流れた。アメリカ軍は「イラク軍が故意に破壊した石油施設から流れた」と説明。この石油施設から流れた重油により身動きが取れなくなった「油まみれの水鳥」がイラクの野蛮な行為の象徴として複数のメディアにより全世界に配信された。そして情に訴えるこの映像と写真は多くの人の心を動かし、イラクに対する憎しみの感情をかき立てる効果を生み戦況に影響を与えた。しかし、これは後に重油はアメリカ軍の攻撃で流出したものだと判明。事実が分かったのは、戦争が終わってからの事だった。