■プーチン氏の「第五列」演説大粛清の始まりか?

こうした政権の焦りは、プーチン大統領の演説にも垣間見ることが出来る。3月16日政権幹部を前に厳しい口調でこう話した。

「西側諸国は“第五列”を使って目的を達成しようとしている。目的はロシアの破壊だ。真の愛国者とクズ野郎や裏切り者は区別できる。裏切り者は口に飛びこんだハエのように吐き出せば済む。自浄のみがロシアを強くする」

自浄というロシア語は「自分」と「粛清」を合わせた言葉だという。この「粛清」という響きと「第五列」という言葉は、ロシアの人々に特別な記憶を呼び覚ますものだという。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「これはスターリンの粛清・恐怖政治を予感させる表現だ。今後、反戦的なうねり、反プーチン的な世論の動きが高まるなか、そういう人たちは外国の手先であって愛国者じゃないんだというレッテル貼りをしながら力づくで抑えようと、それぐらいロシア国内の世論の変化をプーチン氏も敏感に感じ取っていて、こういう表現を使い始めているのだと思う」

スターリンは「第五列」という言葉を使い1930年代に反体制派だけではなく、自分に非難的な一般市民を密告させるなどして処刑、その数は少なくとも350万人に及んだといわている。

森本敏 元防衛大臣
「プーチン大統領はいよいよ自分の生き残りを図ってきたという印象を強くする。政治的にも自分が不利にある状態であることが分かってきて、軍も自分が思った通りにならない、周りに反抗する者もいる。このままだとプーチン大統領が追い込まれて、刑に服することになる。どうして生き残ったらいいかということを考えて、身内の周りの裏切り者を粛清し、同時に第二作戦を展開する。恐らくその間に軍人の何人かが更迭され粛清され、そういうことをやって自分の生き残りの体制を図ろうとしている」

現実にプーチン大統領の演説以降、恐怖政治の兆しは随所で見られるようになった。ロシア大統領府のぺスコフ報道官は3月17日、「きわめて多くの人々が裏切り者になっている。こういう人たちは、自ら私たちの社会から消えている」と発言。連邦上院も29日、「第五列」を壊滅させる法案を準備する予定だと発表した。こうした中、ロシアの街でも、住民が反体制派とみられる家にはペンキでZの文字が書かれ「祖国を売るな」などの落書きが見つかっている。Zはロシア軍が今回の侵攻に際し、戦車などの印として用いているもの。ロシア側がいう、ウクライナのジェノサイドから住民を救う“特別軍事作戦”のシンボルとなっているものだ。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「年上の人たちはソ連時代を知っている。ソ連の崩壊で自由を知った。この状況に年上の人たちも相当の違和感を持っていると思う。これは中長期的にはプーチン体制に対する疑問符を突き付けることになるのではないか」