■「これはロシアの“オウンゴール”です」

ウクライナ侵攻に反対する反ロシアデモが世界各地で行われている。それはロシアと1300キロにわたり国境を接するフィンランドでも・・・。

フィンランド国営通信 ヘイッキ・ヴァルカマ記者
「ロシアが戦争を始めたのはショック。本当にあってはならないことでフィンランド人もかなり不安。フィンランドは第二次世界大戦でロシアと戦ったことを忘れていません。これからもどうなるかわからないので恐怖を感じていると思います」

フィンランドは大戦中ソ連に侵攻された。その恐怖と脅威もあってEU加盟国でありながらNATOには参加しなかったという。NATOに名を連ねれば有事の際、真っ先にロシアの侵攻を受けるかもしれないからだ。
しかし、今回のウクライナ侵攻が転換点になった。フィンランドは、ウクライナに武器供与を決定した。さらに世論調査でNATO加盟支持が50%を超えた。

フィンランド国営通信 ヘイッキ・ヴァルカマ記者
「NATOに入るか入らないかで20年間話が続いていますが、この1か月でぐっと入りたい人が増えました。フィンランドの外交が、ここ2週間で90度くらい変わりました。180度は変わっていませんけど」

同様のことはスウェーデンでも起こっている。ウクライナへの兵器供与を決定し、NATO加盟の世論が高まっている。また、モルドバとジョージアがこのタイミングでEU加盟を申請した。
ロシアは、ウクライナという緩衝地帯がNATOに取り込まれることを恐れて軍事作戦を始めたにもかかわらず、逆に他の緩衝地帯がなくなってしまう展開になっている。

筑波大学 東野篤子准教授
「これは劇的な変化。冷戦後、ヨーロッパが作ってきた中立という概念は、大きく変わりつつある。中立を保つ意味はロシアの脅威の前にあまりないからNATOのメンバーになってしまおうと。これは、ロシアは全く予想してなかったと思う。ウクライナに対する軍事侵攻、そしてNATOから切り離してしまう。これを狙っていた。その副次的な効果としてフィンランドもスウェーデンもNATOの方を向いてしまったということにロシアはいら立ちを隠さない。軍事侵攻がなければ、この2か国がここまで急に動くことはなかった。完全にオウンゴールですね

ヨーロッパの大きな転換は他にもある。NATOは国防費を各国GDPの2%以上を目標としているが、ドイツは頑なに1%台に抑えてきた。そのドイツがロシアの脅威に対抗するためGDPの2%を超える国防費を投じると表明した。更に、永世中立国スイスが、対ロシアのEU制裁を全面的に適用するとしたのだ。

森本敏元防衛大臣
「ドイツの国防費が2%を超えると、ロシアの国防費と同じくらいになる。これは周りの国に脅威を与える。歴史の繰り返しですから…。ということで控えていたんですが、今回は思い切った。ロシアを本当に脅威に感じるようになった」

森本氏は、NATOにおいて1番の問題は、アメリカだと語る。アメリカがヨーロッパの安全のために力を発揮してくれるかどうか、そこにかかっている。
トランプ政権の”アメリカファースト”がNATO内の結束を乱し、安全保障のパワーを弱めてしまった。一方でプーチン大統領は、そのNATOが自国を脅かすために勢力を拡大していると思い込んでいる。山添氏は、こうまとめた。

防衛研究所 山添博史主任研究官
「今、もうロシアは世界から完全に孤立した要塞になる準備をしている。そのためのストーリーとして、外からの情報は遮断して、NATOという脅威がロシアを攻撃しようとしている。だから今は非常時、ロシアはプーチン政権のもと戦うんだ、という都合のいい構造にNATOを役立てている。ロシアはもう別世界になってしまっている。今後はそこを注意しておいたほうがいいと思います」

(BS-TBS『報道1930』 3月8日放送より)