■日給53ドル…ロシア側の兵募集のチラシが
一方、クリミアではあるものが出回っていることが明らかになった。ロシア軍兵士募集のチラシである。
チラシには、ロシア連邦・国防省との短期契約4~12か月。報酬月額20万ルーブルより。
基本給+ボーナス200%+日給53ドル。食事、軍服支給とあり、連絡先の電話番号が書かれている。ちなみに20万ルーブルは日本円で28万円ほどに当たる。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「月給20万ルーブルはめちゃくちゃ高い。ロシアの平均所得の5~6倍の金額。正式のロシア軍人の給料より高い。ボーナスと53ドルの日給が不思議な話。ロシアの国防省が、対立するアメリカのドルで日給を支払うとはまず言わないと思う。正式な募集であれば、国防省の紋章であるとか、どこの事務所の募集かが書いてあるはず。電話番号だけっていう・・・、言い方悪いがサラ金の貼り紙みたい・・・。民間の軍事会社がお金の無い人を集めているのかもしれない」
戦地でも国内でもロシアの兵役事情は混乱しているようだ。そんな中、今も若い兵士たちが大勢命を落としている。ロシア国内では、その事実さえほとんど報じられていない。しかし、黙っていない人たちがいた。
■「ロシア人は、口コミ民族」
ウクライナに侵攻したロシア軍の死者数について、ロシア国防省は1351人(3月25日)、ウクライナ軍参謀本部は約1万7500人(3月31日)とそれぞれ発表している。数字は10倍以上の開きはあるが、紛れもない事実は死んだ兵士がロシアに帰っていないことだ。
その現実を受け、声を上げる女性たちがいる。「兵士の母委員会」、通称「母の会」だ。1989年に設立された兵士とその家族の権利を守ることを目的とした人権団体だ。番組では切実な訴えを直接聞いた。
兵士の母委員会 ゴラブ会長
「どの母親も息子と最後に電話が繋がったのは、2月23日(軍事侵攻前日)でした。24日には息子たちは電話ができなくなっていました」
ゴラブ会長は、戦死した兵士の遺体を引き取りたいとウクライナ側に申し入れたが・・・
兵士の母委員会 ゴラブ会長
「ゼレンスキーはインタビューでロシアが遺体を引き取りたがらないといっていましたが、引き取りたくないはずがないでしょ!引き取りたくないはずありません。私が行って全員の遺体を引き取りたいですよ」
国からの締め付けがあろうと我が子を思う母の行動力は揺るがない。
しかし、母の会といえども設立当時と現在は事情が異なるという。
笹川平和財団 畔蒜泰助 主任研究員
「戦争という言葉も使えない中で、いちばん勇敢にものを言っているのは母親たちだ。だから非常に大きな力を持っている。ただし、会が設立された頃の時代と大きく違うのは情報統制のレベル。今は、母の会も含め“声が伝わらない”統制を政府が徹底している。なので母の会のパワーが落ちてることが懸念されます」
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「西側の国ならSNSなんかで惨状が広まって炎上するってことがあるでしょうが、ロシアはそれが制限されてる。でも、ロシア人って“口コミ民族”なんですよ。公的な制度や情報をあんまり信用してなくて、自分の身近な人から“実はこうなんだよ”と聞いた話っていうのがものすごく信憑性を持つ。戦争始まって1か月ですが、これが長引いて遺体が返ってくる、傷病兵が手足吹き飛ばされて帰ってくる。そこから戦場の現実を聞いた時にロシア国民がどういう反応を見せるのか・・・」
いまロシア兵の亡骸の多くがクリミアも運ばれ、そこで火葬にされているという情報もある。ロシア正教の考え方では遺体は土葬するのが基本…一体これは何を意味するのか。いまプーチン氏を止められるのは、ロシアに送還される亡くなった兵士の遺体だけなのかもしれない。
(BS-TBS『報道1930』 3月31日放送より)

















