■「棄権」南アフリカ “ジェスチャーは何の役にも立たない”

もうひとつ、アフリカの大国、南アフリカも「棄権」だった。アフリカでは、17か国が「棄権」の票を投じている。この南アの姿勢に、国内では「反対と同様、棄権も、ロシアの暴力を許容したものと同じだ」などと批判の声も上がっているという。旧ソ連との歴史的な深い関係が背景にあることも指摘されるが、ここでは、南アのジョイニ国連大使が発表した「国連総会の採決で、なぜ南アは棄権したのか」というタイトルの声明から読み解きたい。

声明では、南アも国際法、国連憲章の原則を守るよう全ての当事者に強く要請する、という前提のうえで、棄権した決議について、こう指摘している。

「決議は、外交、対話、調停に資する環境を整えるものではない」
「両者(ロシアとウクライナ)を対話に近づけることに、もっと注意を払うべきだ」
「決議は、紛争の解決に貢献するどころか、当事者の間により深く、くさびを打ち込む恐れがある」


決議によって、事態が悪化しかねないと警告しているのだ。
具体的には、「紛争の根本的な原因のひとつは、当事者の安全保障上の懸念にあると理解されている。この点について決議のなかに盛り込まれるべきだった」とした。
それ故、「安全保障理事会が国連検証に定められた役割を果たすように促されるべきだ」。
つまり、安保理の「機能不全」を早急に改善すべきという主張だ。

さらに、国連総会の緊急特別会合について、「緊張を緩和し、敵対行為の停止を約束し、信頼を構築しながら、橋を架け、意見の相違に対応し、当事者が妥協の精神で関与するための勧告と支援を提供するプラットフォームとして活用されるべきであると考える」と説明した。

ロシアの武力行使そのものに非があるのは明白だ。立場によっては、両者の間に「橋を架ける」という言葉は、「絶対的な悪者」への譲歩に見えるかもしれない。一方で現在進む、暴力のエスカレートを止めることが最優先されるべきだろう。そのための「架け橋」「プラットフォーム」を作るべく、国連は動けるのだろうか。

そして、南アは、最後に、国連の対応について、こう断じた。

「意味ある行動をとらずに、単に平和を推進しているという印象を与えるだけのジェスチャーは、何の役にも立たないのである」

■国連の存在意義が問われている

緊急特別会合では、各国の国連大使ら120人超が3日間にわたって演説し、大半の国が平和を訴え、ロシアを名指しで非難した。決議が採択されたとき、40秒間、拍手が鳴り止まなかった。こうした議場の光景は、ロシアに即時撤退を求める国際社会の「強い意思」を示したとは言える。だが、現実は苛烈だ。ウクライナで、日々、多くの人が死んでいる。まさに今、国連の存在意義が問われていると言えるだろう。「ジェスチャー」と批判されない、「意味ある行動」に踏み込むことが求められている。

JNNニューヨーク支局長 萩原豊