「正直に言ってほしい…」球審は穏やかな表情で語りかけた


ジャッジを巡り、協議のためマウンド脇に集まる審判団。荒波さんは、厳しく叱責されることを覚悟したという。しかし、尾崎泰輔球審の反応は違った。

試合後、荒波さんのもとへ届いた激励のメッセージ 画像提供=荒波さん

<荒波さん>
「『どのような状況だったか、何をしたのか、正直に言ってほしい』と(尾崎)球審から穏やかな表情で語りかけられた。頭の中が真っ白になってしまったが、私に優しく問いかけてくれたことで心が落ち着いて、正直に伝えることができた」

その後、異例ともいえるジャッジの訂正、謝罪が行われ、試合は再開された。

荒波さんは、試合後の反省会で尾崎球審から掛けられた言葉が今でも心に残っているという。

<荒波さん>
「(尾崎球審が)『あのような場面で自分がミスしたことを伝えるということは本当に辛いことであったかと思うけど、勇気を出して言ってくれたことで正しい形に直せた』と。ミスを責めるのではなく、私の気持ちを救っていただいた。審判技術の向上だけでなく、仲間を思いやる心も必要、大切だと感じることができた」

失敗した時どう立て直すか、自分を見つめなおすのか

「教訓という宝物を甲子園がプレゼントしてくれた」と前を向く荒波さん


荒波さんのもとにはあの試合以降、多くの声が寄せられたという。厳しい意見もあったが、励ましのメッセージは100件を超えた。

<荒波さん>
「『人間だから、ミスはある。残りの試合があるからそれを全力でやっていくように』や『もう一回信頼を取り戻すために自分の持っているものを出し切ってこい』といったメッセージもあった。同じ甲子園で審判をしている方からも『残りの試合を頑張ってやろう』という励ましのおかげで、私の気持ちは救われ、残りのゲームのジャッジにつなぐことができた」

残り2試合、大舞台での任をしっかりと果たした荒波さん。気持ちはすでに夏の大会へと向かっているという。

<荒波さん>
「全国民が注目する場面で失敗は人生の中で一番大きな失敗じゃないかと。審判以外でも、仕事、私生活でも失敗はあるかと思うが、その時にどうやって直すのか、自分を見つめ直すのか。大きな教訓という宝物を、甲子園は私にプレゼントしてくれたと思っている」