治療薬の適用外でも「認知症は支えていける病気」
レカネマブはアルツハイマー病治療に光明をもたらした。2024年に開かれた認知症学会でも大きな注目を集めた。

日本認知症学会 川勝忍 会長
「私たちアルツハイマー病を診察している者にとって、非常に画期的な治療がようやく始まって1年に」
一方で、薬の課題を問う声もある。
認知症の患者(軽度認知障害含む)は推定1000万人以上。このうちレカネマブを処方できるのは、軽度認知障害または初期の認知症の患者に限定され、その数は約540万人(推定)。

副作用で脳出血が起きる恐れがあるため、患者は治療前にMRI検査などを受けなければならない。
脳に5個以上または1センチを超える出血が見つかった場合、対象から外される。レカネマブが投与されたのは、対象患者のうちわずか0.1%と極めて少ないのだ。
2024年12月、大阪市内で行われたのは認知症を診察する医師などを集めたセミナー。新薬がもたらす効果についての説明が続く中で、ひと際異彩を放つ講義があった。

松本一生 医師
「この薬が使えなかったらそれでもうダメかというと実はそうではないということを、この講義では特に強調しておきたい。それ以上に心理面のサポートをすることで、状態の安定・維持がはかれるとしたら、それには価値があると」
松本一生医師は、「レカネマブ」に期待が膨らむばかりの社会の風潮に、懐疑的な視点を持っている。
松本医師が院長を務める「ものわすれ外来」には、日々多くの患者がやってくる。

大阪府内に住むアルツハイマー型認知症の60代の男性。妻と一緒に通っている。薬代が高いなどの理由で、レカネマブによる治療は受けない選択をした。
いまは、松本医師のすすめで、脳内の新陳代謝を活発にして症状を緩和する貼り薬などを使っている。従来の「対症療法」だ。
男性の妻「進行はかなり物忘れは酷いんですけど、何より穏やかになったことと、前向きになってきました」
記者「穏やかになれた理由は?」
妻「完全にお薬を変えていただいて、その時点から変わりました」
男性「それと夫婦愛ですよ」

松本一生医師
「夫婦間の精神的な力動ってあるんです、心の在り方。それが安定することの方が、僕は貼っただけの効果よりは、むしろそこが動いたんじゃないかなというふうに、そんな風に思います。
『あなたは(レカネマブの)適用外だからもう諦めなさい』というような…社会的な風潮にはしたくなかった。
医者側の説明も『あの薬が使えないならもう自由にしたらいいです』って、一部の医療機関ではそういう意見を聞くみたいなことが耳に入ってくるんですが、そうではない。今までのやり方をしたとしても、認知症という病気は支えていける病気だと僕は考えていますから」
