「そこまで壊れてるの?」認知症患者 一人暮らしの現実

若年性認知症でレカネマブによる治療を続けている関田美香さん。2024年夏ごろからヘルパー・坂本智子さんの支援を受けるようになった。
一人暮らしを心配した母の依頼だった。坂本さんは美香さんの“目”となって買い物にも同行している。
坂本さん「あ、これや。オレンジ色の?」
美香さん「これです、これです」
坂本さんは週に3回、1日2時間半、身の回りのサポートをする。散らかっていても気にならない美香さんに声をかけ、さっそく整理整頓を始めた。同世代の2人、気は合うようだ。

坂本さん「もう一回被って、あははは」
美香さん「こうやらないと見えないかも」
20年以上自立した生活を送ってきた自負もあり、ヘルパーに頼ることを渋っていた美香さんだったが、「快適な部屋で一人暮らしを続けよう」という坂本さんの提案を受け入れた。
ところが、真冬にさしかかろうかというある日、美香さんの様子がいつもと違っていた。

記者「どうしたんですか?」
美香さん「いつも履いてるスケッチャーズの靴が…いつも履いてるのになんでないのか」
履きなれた黒い靴が見つからない。不審に思った美香さんはこう切り出した。

美香さん「誰かの手で持っていかれた…悪いけど、そういうことしか考えられなくなりますね。ここまでくると」
記者「ベランダ見ますか」
美香さん「靴?誰か入ってきてるかなあ…。そういう感じがするんですけど」
記者「美香さん、靴ありますよ」
美香さん「え?どこ?」
記者「ベッドの下ではないですか?」
美香さん「ベッドの下?これ?まじで。(履いてみて)これです。ええ、そこまで壊れてる?」

靴以外にも物を盗まれたという疑いは、ヘルパーの坂本さんに度々向けられた。

坂本さん
「え、わたし疑ってる?みたいな。今まで築き上げてきた信頼関係はなんなの、みたいなのはありますけど、この方たちにはこれは通じない。それを責めてもしょうがないことだし、そこはうまく『違うよ』と、わかってもらうことも難しいことだから、流していかないとね」
――レカネマブ治療についてはどう思う?
「もちろん自分で生活している時間が長くとれるというのもあるけれど、その裏には苦しむ時間も長いやろうなって思ってしまうところがありますね。自分で自分がちょっとずつ壊れていくのを自分で確認できる時間があるじゃないですか。それが美香ちゃんにとっては辛いことやろうなって」
「物が盗まれた、なくなった」という思い込みは、認知症患者に出る症状のひとつ。特に身近な人を疑うという。

武田医師
「“物盗られ妄想”というものになるんです。ものをよくなくしてしまうんです。例えば自分が、ある時に場所を変えたこと自体を覚えていないんです。そうすると、どんどん物がなくなるという、奇妙な現象が起きると、やっぱり理由がないと不安になりますよね、そうすると『誰かが盗った』と考えてしまうのは仕方がないことなんです」
レカネマブは病気の進行を完全に食い止めることはできない。
少しずつ自分の身体に起きる異変に不安を感じながら、2週に1回の投与を続けてきた。「自立した生活を続けたい」という美香さんの願いを家族は受け入れてきた。

美香さんの母 幸子さん
「心配ですよ。もう毎日心配ですよ」
――一人で生きたいと拘るのはなぜだと思う?
「全然わからないけど、一人がいいっていうのはわかります。私だってそうですもん。一人でいますからね、一人っていうのは楽なんだなというのはわかるんでね」