電波は誰のもの?
大山 降板を今道社長から言われた時にはどういう感じをお受けになられました?「来たな」と思われたか、「なんだ」と思われたか。
田 今道さんは、本当に根っからのリベラリストだと思いましたね。わざわざ報道局に足を運ばれたり、あるいは私は解説室長というのをやっていて、解説委員がいるところに時々来て、言論の自由を守ろうとか、そういうことをおっしゃっていました。それを翻さなくちゃいけなくなったのは、なんとなく目が潤んでいた感じでしたね。
大山 今道さんは確かにそういう意味では、まだ気骨はあった経営者でしたね。
田 そうですね。ジャーナリスト出身じゃないにもかかわらず、ジャーナリズムが守るべきことを本当に大事にしておられました。私はそのあと政治に行ったのでなおさら思うんですが、日本のテレビ局、放送局を認可する法律は電波法なんですが、その第四条で「無線局を開設しようとする者は、郵政大臣※の免許を受けなければならない」となっている。私はこれが諸悪の根元だと思っているんです。
※現在は総務大臣
つまり、郵政大臣が認可権を持ってるということは権力そのものですからね。電波法の十三条に、放送局は5年ごとに再免許を申請しなければならないというのがあって、福田幹事長が言われた「再免許を与えない」というのはこのことなんです。つまり郵政大臣が「この局は気に入らん」となったら、再免許を与えない形でその会社をつぶすことが可能なんです。そんなことをやってる民主主義国家は他にないでしょう?
大山 そうですね。
田 アメリカでもヨーロッパでもないです。必ず政府からも政党からも離れた完全中立の機関を作ってます。アメリカはFCC(連邦通信委員会)で、メンバーは、与党、今でいえば共和党が3人、それから民主党が1人少なくて、奇数になってるんです。
党がその人たちを推薦して、それを議会で承認する。そうすると、その人たちが上にいて、その下に独立機関のスタッフが数百人いるんです。そこで、ハムの無線局まで含めて、あらゆる無線局の許認可、「この波長の電波を使いなさい」という割り振りをやっている。電波は国民の共有物なので、それが当然だろうと思うんです。
ですからこのことを、私は以後、国会の逓信委員会で何度か取り上げたんですけど、歴代の郵政大臣は役人から厳しく「これは守って下さい」と言われてるらしく、強硬に私の意見に反発しましたね。
今も依然として自民党中心の政権ですけれど、申し上げたように、権力を握ってるものにはジャーナリズムを自分の思う通りにしたいという一種の本能があって、その全くの現れですね。本当にこれは変えないと日本のテレビは良くならないと感じます。
大山 御用テレビ局じゃないよ、っていうことですね。
<本インタビューは2002年11月28日に収録>
田 英夫(でん・ひでお)氏の略歴
1923年 東京生まれ
1943年 東京帝国大学(現東京大学)入学、直後に学徒出陣
1947年 大学卒業 共同通信社入社
1960年 政治部長
1962年 文化部長、10月からTBSで始まった「ニュースコープ」のキャスターに就任
1967年 ベトナム戦争下のハノイを取材し「ハノイ 田英夫の証言」を制作
1968年 政府からの圧力でキャスターを降板
1970年 参議院議員選挙に立候補して当選
2006年 政界引退
2009年 没
【放送人の会】
一般社団法人「放送人の会」は、NHK、民放、プロダクションなどの枠を超え、番組制作に携わっている人、携わっていた人、放送メディアおよび放送文化に関心をもつ人々が、個人として参加している団体。
「放送人の証言」として先達のインタビューを映像として収録しており、デジタルアーカイブプロジェクトとしての企画を進めている。既に30人の証言をYouTubeにパイロット版としてアップしている。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版Webマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。