「不適切にもほどがある!」と宮藤官九郎

TBS『不適切にもほどがある!」(2024年)も評価が極めて高かった。「ドラマ史に残る傑作」(同4月7日スポニチ電子版)とすら言われた。第40回ATP賞テレビグランプリや第50回放送文化基金賞のドラマ部門奨励賞などに輝き、誰もが認める同年のナンバーワンドラマだった。

半面、視聴率には恵まれなかった。個人視聴率の平均値は4.3%、世帯視聴率は7.4%。主な理由はやはり純文学性があったからだと見ている。笑いでコーティングされていたが、人生を考えさせる作品だった。

1986年を生きていた中学校の体育教師・小川市郞(阿部サダヲ)が、2024年にタイムリープしまう。そこで唯一の家族である高校生の娘、純子(河合優実)と自分が、1995年の阪神・淡路大震災で亡くなることを知る。

「オレはいいんだけど、純子がなぁ・・・」(市郞)

市郞の妻・ゆり(蛙亭・イワクラ)は既に病死していた。市郞はがさつな男だったが、家族愛が極めて強く、ゆりの仏壇に手を合わせることを1日たりとも忘れなかった。純子のこともずっと気にしていた。市郞の人生は家族のためにあった。

脚本を書いた宮藤官九郎氏は、昭和と令和の価値観のどちらが正しいのかも問い掛けてきた。むろん、どちらが正しいかなんて決められない。価値観は時代とともにある。これも純文学性だろう。見る側に考えることを求めた。

宮藤氏は笑いの部分ばかり注目されるが、TBS『俺の家の話』(2021年)でも生と死、家族をテーマにしている。2024年には山田さんがオリジナル脚本を書いた『終りに見た街』(テレビ朝日)をリメイクしている。宮藤氏は山田氏を尊敬しているという。

視聴者が宮藤作品に熱狂する理由の1つは純文学性にあると見ている。

<執筆者略歴>
高堀 冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。
1964年生。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

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