生け手の思いを生ける。フラワーアレンジメントとの違いは?

大谷美香氏は映画やドラマの生け花制作、監修を数多く手がけ、創造性豊かな生け花は高く評価されている。2024年9月に中国・北京市郊外で行ったイベントでは、会場全体を使った巨大な生け花を制作。ダンスを取り入れ、踊りながら生けるという新しいパフォーマンスを披露した。

大谷美香氏:
初めは普通のデモンストレーションで次々作ろうと思っていたんです。そうしたら、エンタメ性に欠けると。皆さんチケットを買ってあなたのお花を見に来るのに、普通に生けていたらお花が好きじゃない人はどうするんだと。もっとわくわく感がほしい、エンタメとしては普通に見せるだけでは弱い、そこを何とか考えてくださいよ、みたいなことを言われたんです。

もうこうなったら何かやらなくちゃ、そうだ踊ってみよう!みたいな。山の精が降りてきて、私が山の神みたいな形で指令を出して、山がどんどん色づいていく。山に見たこともないような花が生まれますっていうような脚本っていうんでしょうか、テーマがあってやってみたんです。

――ストーリーも自分で?

大谷美香氏:
はい、自分で考えて。ここはもっと揺らした方がいいのかなとか。わざと踊りながら花をお客さんの目の前に持ってきたりとか。そうするとお客様もわくわくするし、この花が一体どうなるんだろうっていうようなエンタメ性があるのかなっていうふうに考えまして。やれることはやってみようみたいな形で。生け花っていいなって思ってもらいたいっていう気持ちがあるので。

――ちょっと意地悪な質問ですが、それを生け花と言っていいんですか。

大谷美香氏:
はい、生け花です。作っているものは生け花なので。パフォーマンスがあって最後には大きな生け花が完成する。これを生け花と言わずして何と言うか、みたいな。

生け花とフラワーアレンジメントの違いって皆さんよく聞かれるんですけれども、非常に違っていて、生け花は全てのもの、例えば木、枝、苔、石、土、花、全ての自然のものを材料と捉えて、同じぐらい大切に扱うんです。枝も主役になるというか、枝だけの作品ももちろんあります。苔だけの作品、土だけの作品もあるんです。

フラワーアレンジメントは元々ヨーロッパで生まれたものなので、お花畑に囲まれる中で生まれたんです。なので、お花ありきなんです。基本的に90~95%お花。枝はあくまでも脇役なんです。

日本は4分の3が山に囲まれているんですよね。私が海外に行って、山があっていいねってすごく言われるんです。私達はそれを今当たり前だと思ってるんですけれども、山に囲まれているからこそ、枝であるとか、木、石、流木、そういったものも非常に間近に見ながら育っているんですよね。だからこそ、それを使う生け花が誕生したのではないかなと思うんです。それは環境によって生まれたものが違う文化だということなんですよね。どちらが良い悪いではなくて。

絶対的に違うのが、日本は間を取る文化があるんです。絵画でもそうなんですけど、空間美を非常に大切にする。空間を作るっていう考え方で、空間があるからこそ1本1本の線がはっきり見えてくるんです。

フラワーアレンジメントに空間を作るという考え方はないんです。アメリカで「あなたの作品は1平方メートルいくらぐらいなのか」って言われたときに、「日本の生け花っていうのは間を取る芸術なので、1平方メートルあたり何本お花を使っていくらっていう感覚はないです」っていうふうに説明をしたら、アメリカ人がびっくりしていて。

私はずっと生け花しかやっていないので、間を取る考え方が非常に体の中に染み付いているし、きっちりしていないんですよね、生け花の方が。フラワーアレンジメントってきれいにボールになっていたり、三角になっていたりとか、フランスのベルサイユ宮殿の庭なんかも四角になっていることが美しい、左右対称であることが美しいという考え方なんですけれども、日本は左右非対称の方が好きなんです。日本の庭園なんかもそうですよね。そこに美しさを感じるというのは、多分そういった風景に囲まれてきたからではないかな。山がきっちり左右対称ってないじゃないですか。

――「生ける」とはどういうことでしょうか。

大谷美香氏:
生けるとは自分を生けるっていうことなんです。花を生けるというよりも、自分の思い、自分の考えをそこに出す。もちろんそれは草月流を創流された(勅使河原)蒼風先生も、「花を生けるのではない。人を生けるのだ」っておっしゃってるんですね。生け手の思いを生けるっていうところでしょうか。

それに気づいたのは、ドラマや映画のお話をたくさんいただくようになりまして、登場人物の気持ちであるとか、物語のストーリー上の例えば運命とか責任とか、そういったものを花で表現してくれって言われるようになりまして、それが殺戮だったりするんです。とにかく相手を殺したいと思っている気持ちを花で表現してくださいと。

怒りの感情を中に入れて1回生けてみるんですね。そうすると意外にいいものができて、自分では生けないものができるんです。花ってどんなことでも表現してくれるんだっていうのを身をもって感じて自信を持ったというか、もう何だって表現できる。何でも言ってください。

――お題をもらって生けるという体験で一皮むけたのでしょうか。

大谷美香氏:
初めは10年前です。床の間のシーンがあるから仕方なくみたいな形で。監修でもなく役者さんが生けるシーンがあるわけでもないのに、「生け花の先生が紛れ込んじゃってるな」っていう薄ら笑いがあったときに、生け花って本当はもっといろんな表現ができるし、他のところだって生けられるのにって。そのときは悔しいというか自分の力のなさというか無力感にちょっと悩んだんです。

大抵の方は「生け花知らない」って。美術監督の方も全然わからないんですっておっしゃるんです。「床の間じゃなくてももっといろんな表現ができるんです。ぜひ呼んでくださいね」みたいなことを言うと、何人かは呼んでくださるんです。そういうのはやっぱりうれしいですよね、また新しい世界が広がっていくというか。