ふるさとへの恩返しを

9月の奥能登豪雨をきっかけに、SNSや人づてにご支援のご相談を受け、支援活動の幅は、町野町だけでなく、輪島市上大沢地区や輪島市南志見地区にも広がりました。現地で実際に動いてくださる方々の存在はもちろん、現地の方と密に連絡が取れる方があって初めて成立する支援活動を支えてくださったのは、私と同じく現地に容易には行くことの出来ない、Kさんでした。

全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが徐々に硬くなって骨に変っていく「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」という難病を患っているKさんは、これまでに、ご自身の罹患している難病の指定難病認定を求める署名活動や、患者会の立ち上げを行っており、約9年間代表を務めました。

厚生労働省にも三度陳情に行き、2年半の活動が実り、現在は難病認定を受けています。南志見地区の実家に帰省していたKさんは、能登半島地震発災時、毎年恒例となっていたおばあさまの家で親戚のみなさま全員と宴会中に被災しました。

1日はサンアリーナの駐車場で車中泊、2日は自衛隊の輪島分屯基地で、3日は輪島中学校へと、転々と移り、持病のお薬が切れてしまったことから、4日に5時間かけて金沢のご自宅へと戻られました。

輪島市の大規模火災 提供:Kさん

避難生活の初日は、車中泊でも横になることができず、市内で起きた大規模火災がプロパンガスの爆発音と共に近づいてくるなかで夜を明かしました。

その翌日は、自衛隊の輪島分屯基地でも車椅子で一晩過ごし、寒さもあって体がこわばってしまい、輪島中学校での避難の際におばあさまの家からベッドを運んでもらい、ようやく休むことができたといいます。

ご自身の被災・避難生活のご経験もあり、能登半島地震発災以降、現地の人たちと連絡とっていたKさんは、地元のみなさんから届く言葉に心を痛め、「これはもう私が動く! 誰かにお願いする暇はない! 自分で動く!」と決意を固め、すぐに、金沢でお世話になっている方や友人に「輪島がまだまだ困っている。私が動くから協力してほしい」と協力を募りました。

Kさんの言葉に賛同したみなさまが、すぐに動いてくださり、タオルや夏服や、トイレットペーパーなどの生活用品を南志見地区に届けてくださいました。その後、本記事の番外編でもご紹介させていただいた「能登バス企画」のいけちかさんとバス停グッズのプレゼント企画を通じて知り合い、奥能登豪雨発災以降も、金沢で広域避難を続けているご家族やお知り合いと協力しあって、支援活動と地元のみなさまを繋ぎ続けました。藤本との出会いも、SNSからでした。

南志見地区へのAmazonほしいものリストからの支援開始を発信したところ、Kさんから、X(旧Twitter)を通じてコンタクトがあり、連携がはじまります。これまで把握しきれていなかった、お子さま方へのご支援について相談したところ、南志見地区子ども会のみなさまへの衣類や、あたたかい防寒用品のご支援をというニーズを細やかにヒアリングして取りまとめてくださいました。

そんなKさんが、実は入院中の病床から連絡を取り合ってくださったことを、のちに知ることになります。能登半島地震に次ぐ、奥能登豪雨。Kさんのご出身の輪島市南志見地区は、1月には全員避難という選択をせざるを得ませんでした。仮設住宅が出来、ライフラインが復旧し、ようやく人々が戻り始めた矢先、奥能登豪雨が集落を襲いました。

それでも地元に残り、避難生活を続ける方々のために、Kさんはふるさとのみなさまとの間に入り、連携や調整を日々丁寧に続けてくださっています。Kさんによるヒアリングや調整のおかげで、南志見地区子ども会のみなさまにユニクロeギフトカードを通じてご支援いただいた冬物衣類のお届け、Amazonほしいものリストからご支援いただいたあたたかな防寒グッズのお届け、そして先にご紹介させていただきました「サンタさん企画」に賛同してくださった方々のおかげで、お子さまたちにクリスマスプレゼントをお届けすることができました。

現在は、全身がほぼ動かず、杖や車椅子での生活のKさんは、秋に出来た傷が治らず感染症になり、骨まで炎症が広まってしまい、1月半ばには右足親指の切断手術を控えています。それでも、『自分が出来ること』をと、唯一動く手先で支援活動を続けています。「沢山の方からご支援や応援いただき、そのときの恩返しが今です。地元のみなさんは、私のことを知っています。スムーズに支援のニーズ把握やヒアリングが出来ているのは、過去に私自身が助けてもらってきたからです。こんな体の私が支援活動に参加していることにより、みなさん元気貰って活力になっているとおっしゃってくださいます。ケータイぽちぽちしかしていませんが、少しでもお役に立てればと思います。また、こんな私でも頑張っていることを知っていただけることも、またみなさんへの励ましになればなとも感じています」

ご自身の活動をこのように振り返ってくださったKさんは、今日もふるさとのための、情報ボランティア活動を続けていらっしゃいます。

MRO北陸放送では、被災地の声を集め続ける藤本さんが見つめる被災地の現状をNEWSDIGで、毎月掲載します。

藤本透
シナリオライター。アプリゲーム『ノラネコと恋の錬金術』メインシナリオライター。『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』、『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル2』のシナリオ執筆に携わるほか、様々なジャンルでの執筆を手がける。石川県輪島市町野町出身で、石川県を舞台に描かれたアニメ「花咲くいろは」の小説版を執筆。2024年1月1日の能登半島地震発生以降、SNSを通じてふるさとの情報を日々きめ細かく発信している。