サステナブルの原点は家事。二元生活で自給型農業も
――続いてお話していただくテーマですが、加藤さん何番でしょうか?

加藤登紀子氏:
8番。「働きがいも経済成長も」。そこにはちょっと落とし穴が隠れてる。SDGsと言いながら、成長の目標みたいなものを掲げてるじゃないですか。目標を掲げてるっていうことと、サステナブルっていうことと、私は基本的に矛盾してると思う。サステナブルっていうことは成長しないということなの。極端に言うと、循環して循環して、常にゼロでやるというのが本当のサステナブルなんですよ。私が思うSDGsはサステナブルであって、ゴールに到達するのではない。
――実現に向けた提言をお願いします。

加藤登紀子氏:
私の生き方は「土に生きる」。提言です。土に生きるということは常に咲いたり枯れたり、季節を循環して成長はする。しかし、それは育って終わるとか、誰かが食べるとか、ゼロに帰してまた復活というプラスマイナスゼロなんで、それが「土」という字なんです。

必ずやった結果が利益に繋がらなきゃいけないとか、1年に成長率が何%でしたかとか、何かしら上昇しなければならない、結果を得なければならないっていう固定観念を捨てないといけないんじゃないかというのはちょっと思うんですよね。
 
サステナブルっていうことがわかりやすいのは、家事だと思う。一生懸命ご飯作るじゃない、食べて、もうお茶碗洗ってるでしょ。作った成果はお腹に入れて終わりで、また作るじゃない。ゼロに帰することが素晴らしいことなの。洗濯をして、乾いたと思ったらまた次が。要するに際限なく続くんです。これがサステナブルっていうこと、本当はね。サステナブルっていうことを時代の先端の目標にするんだったら、ぜひ家事をしてください。
 
家事は何かというと人間が命を耕していることなの。生きるためにしてることなんですよ。食べて排泄して、眠って。これがサステナブルの原点です。その家事をずっとため息をつきながらもこなしてきたので、私は結構自信があるんですよ。生きることに自信がある。家事をするということがいかに自分を鍛えてくれるか、自分の生きるということを教えてくれる。だから家事っていうのがサステナブルを理解するのにいいと思うんです。
 
フランス革命の指導者だった人が本当に価値を生み出す力を持っているもの、それは土であると。土は何かというと、つまり命ですよね、有機物の塊ですから。そこに種を植える。太陽の光で緑が育つ。これはすごいことなんです。ゼロから物を生み出す瞬間なんですね。
 
その後、産業革命で生産、生産、生産って言ってきた。生産っていうのは何かっていうと、材料を持ってきて、機械とかエネルギーを投入して形を変化させているだけで、ゼロから物を産んでいるわけじゃないんですね。だから機械化されたものっていうのは、エネルギーを必要とするわけで、コストがかかるわけで、そうすると利益を得なければならないっていう。

農業も今、いわゆる産業社会の一つとして農業と言われると、うちも農場やってるんで、「どうしてるんですか」と聞かれて「うちで食べてます」って言うと、「は?」って言われます。自給型の農業があってもいいんです。たくさん採れるとみんなで分け合って食べてます。
 
収穫が良かったり悪かったり、収穫時期に全部鳥が来て食べてしまいましたとかいろいろあるから、収穫の額は一定してないんですよ。今の農業っていうのは、業という名前がついたときに厳しいのは、一定量を生産できないと駄目なんですよ。認められないんですね、農家として。1年に何トン出荷できますか、それが義務づけられるのが今の農業なんですね。
 
だから、今大変ですよ。全部同じ大きさでなければならない。畑に行けばわかるよって、全部同じ大きさじゃないのよ。同じとき収穫したって、大きさが違う。スーパーマーケットに並んでる野菜を眺めると、あなたたち一体どうしちゃったのみたいな。
 
自給型の農業をする人がもっと増えてもいいし、今東京の生活とか現金収入を得る労働を全部やめるわけにはいかないので、両方やればいいじゃないかっていうのはずっと私も私の娘たちも言っていて、こんなに食料不安が起こったりすることがあるようだったら、田舎はどんどん空き家になって、畑も田んぼも作り手がいなくなってるわけなんで、ぜひ二元生活をしたらいいと思うんですね。
 
   
  













