ヒーローインタビューの大失敗がきっかけに

そんな大村さんは現役時代、あまりマスコミとは接点を持たなかった。ソフトバンクに来てからも、職人気質で近寄りがたいオーラを出していたからか、私は彼になかなか声をかけられなかった。そんな中、大村さんへのヒーローインタビューを大失敗したことで、距離が一気に縮まった。
その日、大村選手はホームランを含む3安打猛打賞でインタビュー台に上がった。最初の質問で、私はまずホームランについて触れた。
「第2打席のホームラン、ナイスバッティングでしたね」
「いや、自分はホームランバッターじゃないんで、そういう感覚はないですね」
いきなり否定されて頭が混乱したことを、今でもはっきりと覚えている。余裕がなくなった私は、その後も的を射た質問ができず、ヒーローインタビューは終了。足取り重くリポーター席へと戻った。
失敗の理由は取材不足

翌日の練習終了後、彼のところに行き、「大村さん、きのうはうまく話が聞けなくてすいませんでした」と声をかけた。すると大村さんは「いや、あんな盛り下げるような受け答えしちゃって、申し訳なかったです」そこから、巧打者・大村直之はバッティングへのこだわりを話し始めた。
「強打者の多いこのチームで、僕の役割はホームランを打つことじゃないんですよ。だからホームランはたまたまという感覚なんですわ。普通に見たらナイスバッティグでも、僕の中でそういうものではないんです」
「じゃあ、大村さんにとってのベストな当たりはどんなものなんですか?」
「アウトコースの、ストライクゾーンギリギリに落ちていく変化球を、バットの先に乗せてレフト前に落とした時ですね」
この考えがあるから、私のヒーローインタビューでの「ホームラン=ナイスバッティング」の質問は否定されたのだ。
「だって、そんなバッティングでヒットになったら、ピッチャーも嫌でしょ」
これがプロ通算1850本以上のヒットを打った安打製造機の極意だった。
実況で彼の打撃信念を伝えた
その日を境に、大村さんと私はグラウンド内外で話をするようになり、野球についていろいろ学ばせてもらった。
私が実況している時、彼は、理想としているヒットを何度か打った。その時には「レフトの前、フラフラっと上がった打球、落ちましたー!ポテンヒットではありません。大村直之の、磨き上げた技術が詰まった、狙い通りのヒットです」と職人のこだわりを伝えた。