高所得者には控除拡大しない方法も
基礎控除を拡大すると、すべての所得層に影響が及びます。つまり税率の高い高所得層ほど、減税額が大きくなるという問題が生じます。従って、今回の基礎控除などの拡大にあたっては、高所得者の控除は拡大されないように制度設計する必要があるかもしれません。それによって減収幅もかなり抑えられるはずです。
現在も所得が2500万円を超えると基礎控除はゼロになっており、一定の所得層以上は基礎控除拡大を適用しないようにしたり、所得層ごとに上限がある給与所得控除をうまく組み合わせたりすることで、対応は可能なのではないでしょうか。
経済対策としての所得税減税も議論を
政府は、当面の物価高対策を盛り込んだ経済対策の取りまとめを急いでいます。その中では、低所得者への支援として、住民税非課税世帯に3万円の給付金を支給する方向です。
しかし、たびたび指摘しているように、住民税非課税世帯は大半が高齢者世帯であり、それだけでは、税金や社会保険料を納めている現役世代の低所得者が、支援の対象から抜け落ちてしまうのです。急速な物価高に賃金上昇が追いつかない、働く世代の家計への支援は消費をこれ以上落ち込ませないためにも、必要なことです。
所得税の減税は、その手段としても有効なはずです。国民民主党の問題提起を受けて、所得税減税のあり方の1つとして控除拡大を議論すべきなのです。
政府も日銀も2%の物価上昇が続く世界を目指しているのですから、補助金で物価を抑える政策から、物価の上昇を前提に、それに追いつけない家計を支援する政策に、転換すべき時ではないでしょうか。
中期的には、課税最低限の問題だけでなく、所得税の税率の刻みの議論も必要です。税率の境界線がずっと据え置きでは、インフレの時代には、こちらも実質増税になるからです。
世論の関心も高まった、折角の「103万円の壁」問題。目的と手段を整理した上で、今後の経済政策や所得税制税のあり方の議論にもつなげていくことが必要です。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)