施設を探し始め5年…「老障介護」への不安

家族はいま、将来について頭を悩ませている。高齢になった親が障害のある子を介護する、いわゆる「老障介護」になる不安だ。

和美さん
「私ももう50歳を過ぎているので、この先あと何年くらい(面倒を)みられるんだろうという不安もあります。私も体調が悪いことが今でもあるので、たとえば私が今倒れたら、誰も涼太のことをみる人がいないんです」

そのため、涼太さんが新しい環境に慣れることができる若いうちに、家を出て暮らせる「施設」を探している。しかし、「強度行動障害」があるため、受け入れ先を見つけるのは困難を極めているという。この日も施設に入所できるか、電話で問い合わせた。

和美さん
「入所できる施設を探していまして。かなり強いパニックが起きてしまうので、私一人では抑えきれないという状態」

和美さん
「この施設が通りの激しい道路の近くにあるから『パニックで飛び出したりすると対応できない』と言われた」

竜也さん
「前も道路沿いで断られたもんね」

探し始めて5年、40か所以上見学に行ったというが、涼太さんが入所できる施設は見つかっていない。背景には障害者施設が受け入れの限界を超えている現状がある。

障害者に寄り添う入所施設 待機者は130人 

大阪府岸和田市にある障害者の入所施設「山直(やまだい)ホーム」は、40人の入所者のほとんどが最も重い知的障害と「強度行動障害」がある。山直ホームでは48人の職員がシフト制で24時間、入所者に寄り添った支援を続けている。

ホームでは「強度行動障害」のある人も穏やかに暮らせている。

50代の両親と自宅で生活していたAさん(22)。周囲の人を叩くなどの激しい「強度行動障害」があり、そのたびに母親はAさんの気持ちを少しでも落ち着かせようとドライブに連れ出したという。しかし、それがいつしか強いこだわりとなった。

母親と当時通っていた作業所との連絡帳には…

「久々ペースが崩れドライブ長め 16:00~1:00」
「昼前から急きょドライブ おさまらず、18.5時間、370キロ」

来る日も来る日もドライブをせがみ、断ると手をあげた。

このホームに来て2年半、施設がAさんの刺激になるものを遠ざけたため、「パニック」を起こすことはほとんどなくなったという。

職員
「自宅だと気になるものがいっぱいある。自宅にいるときはドライブによく行っていたので、ホームに来た時はなるべく車が見えない居室で、本人の気になる物をなるべく視界から避けるようにした」

今では、はさみを器用に使って作業もこなしている。ただ、この施設に入所を希望する待機者は現在130人にも上っていて、新たに受け入れてもらうことはかなり難しい。

48歳のTさんも重度の知的障害に加え、強度行動障害がある。入所できたのは、差し迫った事情があったからだ。

もともとは自宅で73歳の母親が、1人で世話をする「老障介護」状態だったという。

ところが2年前、母親が突然、救急搬送された。診断は「肺がんの疑い」。息苦しさで声も出せない中、身寄りが一切いない母親は、地元の相談支援事業所の職員に「娘の今後を託したい」と筆談で伝えた。

せんなん生活支援相談室 嵯峨山徹子さん
「筆談で部屋のここに銀行のカードが入っていますとか。(娘の)行き先が見つからない中で、本当に無理してここまで生活されていたんだろうなと思う」

搬送の5日後、母親は亡くなった。Tさんが一人取り残されることになると、職員から話を聞いた山直ホームは、当時も入所を希望する待機者は100人を超えていたが、優先してTさんの入所を受け入れた。

Tさんは施設で暮らす中でも、時折「パニック」を起こすことがある。

この日は散歩をしていると、突然、道端でサンダルを脱ぎ捨て、横になってしまった。職員2人がかりの声かけで、次第にTさんは落ち着きを取り戻した。