「政治家や警察は信じることができない」 マンデラが掲げた「虹の国」の理念は
「日本のテレビ局の記者になりました。南アフリカの総選挙を取材するため、来月ヨハネスブルクに行きます。その時、会えないかな」
マンポと繋がる術をようやく見つけた私は、彼女のインスタグラムにメッセージを送った。
32万人もフォロワーがいる彼女が、このメッセージを見るだろうか。
もうパジャマ・プリンセスのことなんて、忘れてしまっただろうか。
だとしても仕方ない。メッセージを送った瞬間から、返事がくることはないと半ば諦めていた。
ところが。
「オーマイゴッド!愛しのミコ。いつでも予定を空けるよ!」
20年ぶりのマンポからの言葉は、想像以上に軽く、あっけなく返ってきた。
こんなことならもっと早くから連絡を取っておけばよかったが、とにかく、私たちは20年ぶりに会うことになった。
緊張しながら再会した「憧れのお姉ちゃん」は、眉毛こそ少し太くなってはいたが、おそろしく長く四角いネイルと、どんな人の心も溶かしてしまう太陽みたいな笑顔はまったく変わっていなかった。


今年は、南アフリカにとって初の民主的な選挙が行われてからちょうど30年の節目の年だった。30年間、この国では、マンデラ元大統領が率いた与党ANC(アフリカ民族会議)が、国民の圧倒的な支持のもと政権を維持し続けていた。
ところが長期政権となったANCの内部では汚職が蔓延し、一向に縮まらない経済格差、世界最悪レベルの失業率、国家的災害とも言われる電力危機などから、国民の心はANCから離れつつあった。


5月に行われた総選挙では、与党ANCが初めて過半数を割り、白人主体で親欧米の野党DA(民主同盟)らとの連立政権が発足した。
揺らぐことのなかったマンデラの党・ANCの時代は、一つの終わりを迎えた。
ソウェトで生まれた一人の黒人少女は、差別が撤廃されてからの30年あまりをどう見てきたのか。

「確かに私たちは民主主義を手に入れ、自由になった。投票権を得て、市民として認められるようになった。だけど、今の南アフリカでは毎日のように計画停電が行われ、生活に必要な電気すら手に入らない。政治家や警察は汚職にまみれ、信じることができない。そんな国が、果たして本当に“自由”だと言えるでしょうか?
アパルトヘイトは撤廃され、肌の色による差別はなくなった。
でも、この国には“経済的な不平等”が今も根強く残っています」
白人の失業率が9%であるのに対し、黒人は37%。
世界銀行の調査では、いまも人口の1割が富の7割を支配する、「世界で最も不平等な国」だといわれている。
実際に選挙前の取材では、白人排斥をも辞さない過激な主張を行う急進左派政党(EFF=経済的解放の闘士)が若者の熱狂的な支持を集めていた。縮まらない経済格差から、人種間の分断は再び深まっているように感じられた。
マンデラが掲げた「虹の国」の理念は、失われてしまったのだろうか。
「すべてがダメなわけじゃない。ここからきっと良くしていける。上手くいかなかったのは、いつしか政治家が国民のためではなく私利私欲のために動くようになってしまったから。恵まれない人にチャンスを与え、国民のために奉仕する政府がいれば、この国はもっと豊かになれる」。

