「死んではいけない」止めた医師

ライフサークルの施設

異変に気付いたプライシック医師が、泣きじゃくるくらんけさんに尋ねた。

医師:「どうしたの」

くらんけさん:「私は両親や家族を無視することができません」

医師:「ストップして。あなたはお父さんと一緒に家に帰るべきよ。あなたは心の準備ができていない。今、死んではいけないわ」

くらんけさん:「ごめんなさい」

医師:「大丈夫。あなたは両親にこんな仕打ちをしたくないと思っているのよ。とても勇敢だわ。運命があなたにもう少し生きることを望んだのよ」

くらんけさん:「はい」

その瞬間、父親は嗚咽しながら、娘を目一杯の力で抱きしめた。

娘と帰国へ 笑顔を見せた父親

安楽死を取りやめた直後のくらんけさん

安楽死を直前で取り止めたくらんけさんは、口に含んだ致死薬を吐き出し、1時間ほど横になった後、私に話をしてくれた。

「今まで家族に助けてもらったことが、揺らぎの要因です。今日死ななかったことを悔やむ日が絶対に来ると思います。それでも、家族との時間を優先しようと思うのも私の選択です」

筆者(手前左側)と帰国するくらんけさん

2度と来ることはないと思っていたチューリッヒ空港には、くらんけさんと車椅子を押す父親の姿があった。スイスに降り立って以来、終始、強張った表情をしていた父親は、別人のような笑顔を見せた。