過去最多の9人が立候補-。裏金事件への批判の高まりを受けほとんどの派閥が解消されたために、極めて異例の“カオス”選挙となった自民党総裁選。従来の「派閥の合従連衡」に代わり一体何が勝負の決め手となるのか、TBSテレビ報道局の後藤俊広解説委員が考察する。

候補者乱立で予測困難に

「正直言って今回はどうなるか本当に読みづらい」

今月初旬、私は旧知の自民党関係者と1時間ばかり話をして総裁選の雰囲気や情勢を聞いてみた。この人物は昭和の終わり頃から現在に至るまで自民党の総裁選を初めとする権力闘争を直に見聞きしてきた“生き字引き”的な存在だがその当人が口にしたのがこの発言だ。確かに今回は異例尽くしの総裁選と言える。

最も異例なのは立候補者の人数だ。9月12日の告示日を前に続々と候補者たちが名乗りを上げた。

先鞭をつけたのは若手から推された小林鷹之前経済安保担当大臣、続いて石破茂元幹事長、河野デジタル大臣が8月のうちに立候補を表明。9月に入るとさらに加速し、3日に林芳正官房長官、4日には茂木敏充幹事長、6日に小泉進次郎元環境大臣、9日に高市早苗経済安保担当大臣と出馬表明ラッシュが続いた。この他にも出馬に必要な20人の国会議員の推薦人確保に時間がかかっていた加藤勝信元官房長官と上川陽子外務大臣も何とか間に合わせることができた(加藤氏は10日、上川氏は11日に出馬会見を行った)。

これにより合わせて9人が総裁の椅子を争う構図となった。これまでの最多候補者数5人を大幅に上回る候補者乱立だ。このため一回目の投票ではどの候補も総裁就任に必要な過半数を獲得することは出来ないという見方が強まっている。

なぜこれだけの候補者が名乗りを上げたのか?冒頭に紹介した自民党関係者は、答えは簡単と説明する。

「派閥に遠慮する必要が無いから野心家たちは『われこそは』と次々名乗りを上げている。派閥が力を無くした影響が出始めていると言ってもいい」

岸田総理が、自分が所属していた派閥「宏池会」=岸田派を解散すると宣言したのは派閥の裏金事件が吹き荒れていた今年1月のことだった。

岸田総理が岸田派の解散を宣言 1月

その直後には裏金事件で所属議員や職員が立件された安倍派・二階派も相次いで解散を決定。この流れを受け森山派も解散を決め、当初は派閥解消に慎重だった茂木幹事長も自分が会長を務める茂木派を政治団体としては解散に踏み切った(ただし茂木派は「政策集団」の形ではいまも存続している)。このため現時点で純然たる形で残っている派閥は麻生派のみということになった。