■「対話への移行が一刻も早く」「再び冷戦の“足音”聞くためではない」

現状を打開する方法はあるのか?勿論あります!唯一合理的なもの、それは交渉です。相互非難、好戦的なレトリック、軍備拡大から、責任ある対話への移行が一刻も早く行われるよう、できることは何でもしなければなりません。

現代の国際政治において、ロシアと欧米の信頼関係の再構築ほど、重要かつ困難な課題はありません。ロシア抜きで深刻な国際問題を解決することは不可能であるため、欧米もその必要性を認めています。しかし、欧米は現在の状況に対するすべての責任をロシアに負わせようとしています。ロシアの方から歩み寄ることだけを待っていて、すべての争点に関し、欧米の立場に同意することを求めています。これではロシアと話ができないことを理解すべきです。ましてや、ロシアと他の国との関係を悪化させてまで、ロシアを孤立させるべきではありません。

ロシアには、何世紀にわたる豊富な外交経験があります。それは対話と建設的な協力の形を示したペレストロイカによって、さらに豊かなものとなっています。冷戦を終結させたのは、再び冷戦の“足音”を聞くためではありません。

近年起きている信頼の崩壊は、致命的で取り返しがつかないものだとは思いません。挫折や失敗、過ちの一種だと考えています。過ちであれば修正できます。過ちを正すには、時間、忍耐、常識、交渉など多くのことが必要になるでしょう。しかし、最も重要なのは、我々は同じ地球に暮らし、将来の世代に対し、この壊れやすい惑星の運命に責任を持っていることを理解すべきです。

最初の質問に対し、私はロシアの未来はただ一つ、民主主義だけだと言いました。効果的な外交を行うために我々に必要なのは、民主的で強いロシアです。これが私の信念です。21世紀にふさわしい新たな国際政治を築き上げるにあたって、ロシアは建設的な役割を果たす運命にあると確信しています。

■「歩かなければ目的地にはたどり着かない」

ーーあなたはかつて、日ロの間に領土問題が存在することを公式に認めましたが、いまのプーチン政権は領土問題の存在を否定する強硬姿勢に戻っています。いまだに日ロ両国の間に平和条約が結ばれていないことをどう考えますか?両国はどのような関係を築くべきだと考えますか?

ゴルバチョフ元ソ連大統領:
私がソ連の大統領として公式に来日してから、30年以上が経過しました。「新思考外交」に基づく日ソ関係の新たな局面の始まりとして、私はその訪問を受け止めていました。「新思考外交」は、冷戦終結、東西ドイツの統一、国際紛争・戦争の終結、パリ憲章(=90年、欧州における冷戦体制の終結を宣言)の採択、集団安全保障の議論など世界で大きな成果を上げていました。

ですから、私の立場は、協力関係を築き、互いの国民の認識を変え、さらに、地域・国際情勢の変化によって、問題解決のための最適なアプローチを探すことでした。日ソ関係においても、このようにして両国の関係を新しいレベルに引き上げようとしました。訪問の結果、私と海部首相は、日ソ共同声明と一連の分野に関する15の文書に署名することができました。

しかし、ペレストロイカが中断し、残念ながら私たちの関係発展は行き詰まってしまいました。新しい政権は、我々とは異なる彼ら自身の政策とビジョンを持っていました。私は今でも、大きな成果を上げるためには、あらゆる分野での協力発展、それに首脳、閣僚、専門家レベルでの協議が必要であると確信しています。これが相互の信頼を醸成できる唯一の方法であり、それなくして、困難な問題の解決につなげることはできません。議題を拡大することも必要です。 たとえ難しい時でも、対話を中断すべきではありません。交渉を恐れずに、最も困難な問題を議論の俎上に載せなくてはなりません。

古代インド・ヴェーダの格言があります。ラテン語の文書や聖書、世界の古典作品など、世界中で使われてきた言葉です。

「歩かなければ目的地にはたどり着かない」