■国民を「主役」にするためだった

しかし、私は、ペレストロイカが歴史的に正しかったと確信しています。ペレストロイカは必要でした。私たちは正しい方向に進んでいました。なぜなら、ペレストロイカには1つの「ライトモティーフ(=オペラなどで繰り返される主題・動機)」があったからです。これはすべての段階において、一貫して、我々の「模索」を導く“赤い糸”でした。ペレストロイカは国民に向けられたものでした。その目的は、国民を解放し、自らの運命と自らの国の「主役」に据えることでした。ですから、ペレストロイカは大規模な人道的プロジェクトでした。何世紀にもわたって、国民が専制国家、全体主義国家に従属していた中で、それは過去との決別であり、未来への突破口でした。これは現代にもつながるペレストロイカの真理です。異なる方法をとれば国が行き詰まることになりかねません。

グラスノスチは、改革そのものだけでなく、国民をそこに参加させるためにも、最も重要な手段でした。この言葉がペレストロイカとともに、ほとんど毎回、言及されているのは偶然ではありません。あなたも質問で言及しています。グラスノスチは古いロシアの言葉です。社会の開放、言論の自由、そして、国民に対する当局の説明責任など多くの意味を持っています。他の言語に翻訳することが不可能だというのも不思議ではありません。私は、グラスノスチこそ、自分の最大の協力者だとみなしていました。いまも同じ意見ですが、グラスノスチを批判する人たちがいつの時代も一定以上います。私は、国の状態と周りの世界について、国民に真実を伝えることが、私の役目だと思っていました。グラスノスチは、当局への批判を含め、自分の考えを自由に言えるようになった人たちからの声でもありました。つまり、国民が真実を知る権利です。

ですから、私はムラトフ氏とともに(2021年)11月18日、「メモリアル(=ロシアの人権団体でソ連時代のKGBによる人権侵害・抑圧など調査、スパイを意味する「外国の代理人」に指定されている)」を解散させようとする動きに抗議するため、ノーベル平和賞受賞者同士として初の共同声明を発表しました。「メモリアル」は、抑圧の時代に殺害され、負傷した何十万人もの人たちに関する歴史的記憶を掘り起こし、現在や将来に二度と起きないようにすることを目的としています。「メモリアル」の活動を続けることは、社会と国の利益に一致します。

■「ロシアの未来は1つ、民主主義だ」

私を批判する人や、時代の本質を理解していない人は、ソ連崩壊がペレストロイカの最終的な結果だと、今も主張し続けていますが、決してそうではありません。勿論、間違いもありましたが、ペレストロイカは大きな成果を収めました。冷戦の終結、核武装解除に関する前例のない合意、さらに言論の自由、集会、宗教、国を離れる自由、政権選択が可能な選挙、複数政党制など、国民が獲得した権利と自由です。最も重要なことは、改革が後戻りできないところまで進めることができたということです。

しかしながら、現在においても、定期的な政権交代や、国民が政府の決定プロセスに関わることができる体制づくりは整っておらず、改革の当初の目標はまだ実現していません。私はこれまで、時には厳しく批判的に、時には前向きに評価しながら、ペレストロイカの理想と価値観を持ち続けることを求めてきました。それが道しるべであり、それなしでは迷いかねません。

では、ロシアはどこへ行くのでしょうか?私はよくこの質問を受けます。そこには真の民主主義に到達するロシアの能力に疑問があるかのようなトーンが含まれています。彼らは時折、ロシア政府が採択する法律や決定が民主主義に即したものなのか尋ねます。私はいつもこう答えます。我々の国民はあなたたちが思っているより民主的です。

ただ、ロシアには困難の歴史があります。250年間にわたる「タタールのくびき(=13世紀に始まったモンゴルによる侵攻と支配)」、農奴制(=主に隷属する農民)、スターリン時代の弾圧。国民は奴隷のように扱われることに馴らされていました。それらが終わったはずの90年代(=90年代、ロシアの政治・経済が大きく混乱)にも、国民は、民主主義とは名ばかりの、混乱と無秩序に耐えなければなりませんでした。

我々は、過去から何を拒否すべきか、何を受け入れることができるかを学ぶ必要があります。時間はかかります。しかし、ロシアの未来は1つしかありません。それは、民主主義です。

■「このままでは大惨事になりかねない」ゴルバチョフ氏が鳴らす警鐘

ーーいまのロシアと欧米の関係は冷戦後最悪ともいわれていますが、かつて「冷戦終結」を宣言した立場として、どのような思いで見ているのでしょうか。また、これからの国際社会でロシアのあるべき立ち位置をどう考えていますか?

ゴルバチョフ元ソ連大統領:
私は、美化することなく、正直に言わなければなりません。現代の世界は、主要な大国間でほとんど制御不能な軍事的・政治的対立に直面しています。これまで作られてきた枠組みは壊れているか、緩んでいるか、あるいは脅威にさらされています。このままでは大惨事になりかねません。

遅かれ早かれ、目を覚ますだろうと私は確信しています。そのためにどんな犠牲を払うことになるのか、それが問題です。最近、軍用機や艦船の「異常接近」をよく耳にします。政治家や軍が真剣に考えるために、本当に衝突が起きないといけないのでしょうか?止めることができない「連鎖反応」が起きてしまう可能性について心配していないのでしょうか?