ファクトは廃る フェイクは永遠
この出来事があった翌日に私はイスラエルに飛び、その日から地上波放送だけでなく、X上での報告を活発に行った。津波のように押し寄せる情報。その中には、極めて不謹慎なフェイクニュースも混ざり、公式な情報さえ疑わざるを得ないほど、ネット空間は汚染されていった。
イスラエル側、ハマス側の公式発表は意図的でなく間違って発信されたものだけでなく、恣意的に切り取られた情報や全く違う文脈の映像、画像が記事に添えられることが起きていたのである。
最もわかりやすい例が、イスラエル首相報道官の投稿だった。報道官は、ハマスが空爆被害の現場を映画の様に再現し、ドラマチックなフェイクで共感を得ようとしている、と断言。“撮影の舞台裏写真”まで載せた。この投稿は親イスラエルなアカウント間で瞬く間に拡散し、日本を含む世界中でハマスへの批判が押し寄せた。

しかしその直後、一連の写真は、実際にレバノンで撮影された短編映画の一部だったことが分かったのである。映画には、パレスチナ人が空爆に遭うシーンがあったため、イスラエル首相報道官はそこだけを切り取り、あたかもハマスが自作自演をしているかのように投稿したのだ。
実際に映画を撮影した監督ラムジィ氏と子役の少女はすぐに声明を出し、首相報道官を批判した。しかしこのフェイク投稿はしばらく残り、拡散を続けていった。報道官は謝罪も釈明もなく、投稿をいつの間にか削除した。公的な人物が投稿したフェイクに、実名を出して批判したこの二人について覚えている人がどれだけいるだろうか。
文字通り、ファクトは廃り、消えてしまった。しかし、あの時拡散された「ハマスは自作自演をする嘘つきだ」というフェイクのイメージは永遠と残り、今なお広がり続けている。
ハマス側も大概だ。自分たちが撃った可能性が高いロケット弾の誤射を、「イスラエルの空爆」と断言し、イスラエル側に批判が殺到した。自戒を込めて吐露するが、私だけでなく世界中のメディアが、ハマスの発表を鵜呑みにして報じたことで、この件はさらに加熱した。後に様々なメディアが検証・訂正記事を出し、私も現地の情報を元に訂正した。