どんな調査が望ましいのか
同じ質問でも、回答形式がMAか3Aかで、数字の出方にかなり差が生じることを見てきました。その一方で、(少なくともここで取り上げた質問では)項目の順位が2つの回答形式で極端にズレることはなく、選択肢の大まかな大小関係は両者で似た感じになることも見てとれました。
そもそも調査の質問で選択肢をたくさん用意するのは、その質問に対して色々な回答があり得ると想定されるからです。
回答者にとって、「アレもコレもあてはまる」という気持ちをそのまま反映できるMAは、その意味で答えやすいと言えます。
一方、回答を3つに絞る3Aは「アレとコレとどちらがよりあてはまるか」をいちいち考えさせるため、回答者の負担が大きい形式です。
しかし、調査する側では、どれも同じくらいの選択率で軽重の見分けがつきにくいMAより、回答者が重みを付ける3Aの結果のほうが、どれに注目すれば良いかハッキリして使いやすいこともあります。
また、答えやすいというMAでも、適当な選択肢を2~3個選んだら、他があてはまるかどうか考えるのは止めて、回答者が次の質問に行ってしまうという現象も確認されており、一筋縄ではいきません(注4)。
どんな回答形式を用いるかは調査する側が決めることですが、回答結果の質は回答者が決めることになります。
紙の調査票を使っていた時代、お金がかかるアンケート調査の企画・運営は専門家の仕事でした。しかし、早くて安価な調査が可能な今、普通のビジネスパーソンが調査を実施することも一般的になってきました。
このコラムの冒頭で「あなたは日頃、アンケートによく回答しますか?」と問いました。今、同じ回答者に「あなたは日頃、よくアンケートをしますか?」と質問しても、それなりの該当率になるかも知れません。
調査をする側、される側の両方になる人には、「質問が過剰で長大で難解な、自分なら回答しないような調査を人に強いるのは、結果も荒れるから止めよう」と伝えたいです。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」ですから。
注1:筆者の経験では、「3A」という言い方は一般的な単語というより、調査業界内の用語のように思います。
注2:TBS生活DATAライブラリは、1971年の開始以来「JNNデータバンク」という名称で続けてきましたが、2024年4月に改称しました。
注3:具体的には、社会全般および日常身辺の関心事のそれぞれについて、最初に「現在あなたが特に関心をお持ちになっていることを次の中からいくつでもお知らせください」とMAで質問し、次に「今お答えいただいたものの中で、現在あなたが特に関心をお持ちになっていることを3つまでお知らせください」と3Aで重ね聞きしました。
注4:江利川・山田(2023)は、選択肢ごとに「あてはまるかどうか」を必ず答えさせる「個別強制選択(forced choice;FC)形式」とMAを比較した結果から、FC形式を推奨しています。
引用文献
江利川滋・山田一成(2023)個別強制選択形式の有効性評価 山田一成(編著)Web調査の基礎 誠信書房 pp.53-76.
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング局も兼任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。














