■アメリカのフェイク「広島に放射能はない」

原子爆弾は、爆発に伴い、熱線や爆風に加え、大量の放射線を発します。

放射線は、人体の奥深くまで入り込み、やけどの傷が癒えても、深刻な障害を引き起こすことがあります。

被爆の7、8年後をピークに、多くの人が白血病を発症。その頻度は、被爆していない人の約20倍でした。


原爆の、最も残酷ともいえる特徴=放射能。原爆投下から3か月後の長崎で撮影された映像にはアメリカ兵が放射線量を測る様子が・・・しかし、アメリカ軍は「広島と長崎における原爆の影響」と題した調査報告フィルムで、残留放射線の人命への影響について、明確に否定します。

「人命にかかわるような放射線は観測されなかった」


そして、原爆開発計画の総責任者、陸軍のグローブス少将が、原子力委員会という公の場で、次のように証言したのです。

「残留放射線はありません。『ない』と断言できます。放射能によるヒトへの被害は確認されていません」

その軍の見解を、アメリカのメディアが広めていきます。

「廃墟と化した広島に放射能はない」

こうして浸透していった「放射能」をめぐる嘘。アメリカでは、間違った認識が刷り込まれていきました。

そしてアメリカでは、「原爆は戦争を終わらせるために必要だった」と言われてきました。

一方で、被爆した人たちはその間、多くが、後遺症に苦しみ続けてきました。今も、原爆症と認定された人だけで、約7000人が、ガンなどと闘っています。


原爆症を60年以上研究する第一人者、鎌田七男名誉教授は、こう話します。

「20年30年たって、ある時には肺がんが出てきたり、さらにそれから10年たったら大腸がんが出てきたり、一人の身体に2つも3つもガンが出てくるという状況が稀ではありません。生涯にわたっていくつものガンを発症する。」

■「プーチンは人間かなと思いました」


16歳で被爆したイさん。80歳を過ぎてから初めて被曝体験を語りはじめ、
チョルノービリ原発事故の被害があったウクライナも訪問。

また、在日韓国人をめぐる被爆の実態について訴える活動も精力的に行ってきました。

しかし、被爆から77年となる2022年、盲腸がんと診断。放射能による原爆症だと認定されました。


イ・ジョングンさん:
最終的に、ガンですと。放射能によるガン。77年たってもこうして出るということは、いかに放射能が人間の体を食いつぶすかと。この放射能の恐ろしさというものを子どもたちにも話をしながら、核反対しようよと。恐ろしいよ、と。

放射能をめぐるフェイク・・・・。なぜアメリカでは、原爆をめぐる真実が明らかにされなかったのでしょう。

その背景を研究する専門家は。


広島市立大学国際学部 井上泰浩教授:
伝えられなかったんです。伝えてしまうと毒ガス以上の非人道的兵器として認識されてしまう。これはアメリカ軍としても政府としても避けなくちゃいけないことでした。罪の意識っていうのは、心の隅にあると思う。とんでもない兵器を使った。人間としては認めたくない。信じたいことを信じる。私の政府は、私の軍は素晴らしいことをしたんだと信じたいという人間の心だと思います。

そして今、ウクライナ侵攻で、再び高まる核の脅威。

イ・ジョングンさん:
プーチンは人間かなと思いました。彼は知っているはず。広島や長崎がどれだけの被害を受けて、どれだけの死に方をしたのか。もう2度とこの核を使うなんて考えられない。

7月30日、イさんは亡くなりました。
93歳。盲腸がん。原爆症による死でした。