今の報道、ニュースに足りないのは歴史性
隈部 もう最後、あと1問ぐらいにしますけど、アナウンサーをはじめとして、今、放送に携わってる人に、これだけは言っておきたい、このことだけはぜひ気を付けてほしいとか、そういうことはありますか。
鈴木 歴史を勉強してほしいってことです。今の報道に、ニュースに、それから番組に足りないのは歴史性です。目先のものを伝えるだけになっている。例えば今、大震災(東日本大震災)が起こってますね。そうすると、阪神淡路大震災と比較して、あの時はこうだったからって言ってるんですよ。
私はね、むしろあの空襲、昭和20年3月10日の東京大空襲。あれと比較したほうがいいと思ってんです。例えば被災地にね、何日経っても、食事が来ない、水も出ない、ガスも来ない。それはね、空襲直後の日本と全く同じなんです。ですから、空襲の後どうやって立ち直ってきたかの方がはるかに参考になるんです。
隈部 うん。
鈴木 それが今の人達は、みんな戦争や空襲って知らないから、同じ震災だからって阪神淡路大震災と比べてる。でも阪神はね、1週間後にはもう、物資は全部こと足りてたんですよ。それと比べて遅いとか何とか。そういう歴史性が足りないんですよ。
隈部 うん。
鈴木 それから今の経済状態が、終戦直後の経済状態と似ていたり、昭和初期の状態と似ていたりってね。もっとなんか、こないだ初めて見た「ニュース深読み」ってのでも全く、浅くしか読んでない。ただ、今までの情報を集めてるだけで。歴史性が足りないから、少なくとも現代史だけはよく読んでほしいですね、裏の裏まで。
隈部 いや、ありがとうございました。大変広い範囲にわたって、ほんとうにありがとうございました。(本証言は2011年4月18日に収録)
【鈴木健二氏のプロフィール】
元NHKアナウンサー。テレビ草創期の教養番組からワイドショー、バラエティー、報道、歌番組まで自ら顔を出して番組を進めるスタイルの先駆者となった。驚異の記憶力と豊富な知識に裏打ちされた話術で人気アナウンサーの地位を不動のものとし、「知の巨人、喋る巨人」「NHK主任教授」などのニックネームで数多くの番組司会を担当した。
出演番組は「こんにちは奥さん」「歴史への招待」「クイズ面白ゼミナール」「紅白歌合戦」ほか多数。
略 歴 
1929年 東京(現墨田区)生まれ、生粋の江戸っ子から旧制弘前高校へ進学。
1952年 東北大学文学部美学美術史学科卒業後、NHKに入局。熊本放送局配属、アナウンサー兼ラジオ取材。
1954年 東京アナウンス室転勤、4年後大阪放送局に異動。    
1960年 東京に復帰後、報道関係やドキュメンタリー番組のナレーションを担当、東海道新幹線開通中継やアポロ11号月面着陸特番などの司会進行も担当。
1969年「こんにちは奥さん」「昭和の放送史」ほかの司会でギャラクシー賞受賞。
1972年 教養・バラエティ番組に活躍の舞台を移す。        
1984年 理事待遇。                        
1988年 定年退職。その後、熊本県立劇場館長に就任。
1998年 青森県立図書館長就任    。
2024年 95歳で没。
【放送人の会】
一般社団法人「放送人の会」は、NHK、民放、プロダクションなどの枠を超え、番組制作に携わっている人、携わっていた人、放送メディアおよび放送文化に関心をもつ人々が、個人として参加している団体。
「放送人の証言」として先達のインタビューを映像として収録しており、デジタルアーカイブプロジェクトとしての企画を進めている。既に30人の証言をYouTubeにパイロット版としてアップしている。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。
 
   
  













