■「何人の日本人が殺されたら防衛出動がかけられるのか」
自民党衆議院議員 小野寺五典 元防衛大臣
「台湾のすぐそばは尖閣諸島、与那国島も石垣島も日本の領土ですから台湾が攻撃された時点で、存立危機事態や武力攻撃事態になりかねないかもしれない。」
これが“台湾有事は日本の有事”といわれるゆえんだと、小野寺議員は言う。
しかし今回のシミュレーションにおいて議論が進まなくなるポイントがあった。それがこの“事態認定”をどうするのかだ。有事においてどんな対応をするかは、すべて現在どんな事態なのかをどう政府が判断するかによって決まる。即ち、放置すれば日本に危険が及ぶ『重要影響事態』~この場合、自衛隊は同盟国の後方支援に当たる。
次に、“密接な関係にある外国”が攻撃を受け、日本も存立が危ぶまれる『存立危機事態』~この場合、集団的自衛権を行使できる。
最後は、直接日本が攻撃を受ける『武力攻撃事態』~この場合は自衛隊も武力を行使できる。
だが、近隣である台湾周辺でも危機はこの分類が難しいという。
シミュレーションではアメリカとの協議の後30分以上たっても閣議決定が行われない日本の状況に、アメリカがこのような言葉で苛立っている様子も盛り込まれた。
“先島諸島で何人の日本人が殺されたら防衛出動がかけられるのか”軍事戦略の専門家は、おそらく現実は事態を分類している場合ではないという。
防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「アメリカが援護するであろう台湾を攻撃する中国が最も有利な瞬間は、奇襲攻撃なんです。この最初の瞬間に米軍を攻撃しないことはないだろう。台湾を支援しうる場所にある空港と港湾をまず叩く。そうすることで台湾を物理的に孤立させる。(中略)おそらく第一撃で、グアムと沖縄の米軍が使う空港港湾を攻撃する。つまり初日に日本が攻撃されますから、日本が事態を分類するのは意味をなさない」
■「歴史的に見て“運命の一発”みたいなことは起こらないんですよ」
今回の中国の軍事演習は、これまでのものとは規模も期間もやり方も全く違う。日本やアメリカを巻き込むことを前提とした、かなりあからさまな行動だ。しかし、これがすぐに戦争には繋がらないと高橋氏は言う。
防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「偶発的武力衝突にはならない。歴史的に見て“運命の一発”みたいなことは起こらないんですよ。前線部隊がちょっとした事故や発砲があってそれがきっかけに戦争になったことなんて過去にないんです。映画などでそういうきっかけで戦争が起こることが多いから、みんな心配するんで・・・。何故かというと、大戦争を起こすには何万人何十万人の陸上部隊が動くんです。これが海を渡る軍事作戦なら1週間や2週間じゃ準備ができない。準備がないと戦争なんてできない」
一方で、日米は中国が唱える“一つの中国”に異を唱える立場をとっていないため、準備をすることはできない。つまり、台湾は国ではないため、日米台で軍事上の取り決めを協議する事前の準備をすることすらできないのである。高橋氏は台湾有事に関しては、日本やアメリカは“宿命的に準備不足で戦わなきゃいけない戦争”になると断言している。