■「もはや中国と一緒になるしか道はないって思わせる」

中国は、脅しはするが、武力による台湾統一は避けたいだろうとするのが専門家たちの見方だ。統一の仕方には3つあるという。武力による統一『武統』、平和的な統一『和統』、そしてもうひとつが、『智統』といわれるものだ。インテリジェンスを駆使した統一。
例えば先日ペロシ下院議長が訪台湾した際に、台湾の駅に設置された大型ビジョンが乗っ取られペロシ氏を非難するメッセージが掲示されたり、コンビニ内の掲示板にもペロシ氏へのフェイクニュースが流れたりした。これらは中国による認知戦とされ、いわゆる“戦わずに奪う”戦略の一環だ。

台湾の防衛を担う国防部が創設したシンクタンクに実情を聞いた。

国防安全研究所 王彦麟(おうげんりん) 博士
「駅やコンビニ以外にも、地方自治体で電子掲示板の制御権が奪われる事件があった。地方自治体は奪還できず、電源を切ることしかできなかった。これで台湾側のインフラ防御がどの程度のものなのか見て取ったでしょう。(中略)中国の認知戦の典型的手法として、台湾で政治活動を行う人間を育成している。地方自治体の議員レベルからスタート。中国の支援を受けた人間が、台湾の議会で発言している状況は想像しにくいかもしれないが、そういう人がその後もっと高い地位につくかもしれない。それは台湾人にとって恐ろしいことです。」

政治家だけではなく、軍人への認知戦も始まっているという。

国防安全研究所 王彦麟(おうげんりん) 博士
「金銭を餌に退役軍人をつります。退役後も先輩後輩の関係が残っているため、中国に取り込まれた退役軍人が現役軍人にアプローチ。平時であれば軍内部の機密情報が中国に流れるでしょうし、戦時の場合、武器システムを操作する現役軍人が中国とつながりを持った場合、その軍人ひとりのために部隊がマヒしかねない」

このほかにも宗教を通して台湾に中国寄りの信者を増やし、統一への抵抗感を弱めることも『智統』への一環だという。中国・台湾の事情について著作も多いジャーナリストで大学教授の野嶋剛氏は言う。

ジャーナリスト 野嶋剛 大東文化大学教授
「(ツイッターなどSNSを使った)フェイクニュースはかなり深刻です。例えば、ペロシ氏が台湾に来たのは台湾政府が巨額の資金を与えて招致したと、軍事演習があった時に(台北が危ないから)故宮博物館の優れた文物を日本に避難させるとか。これには慌てて故宮博物館が否定しました。こうしたフェイクニュースが次から次に流れまして、これは組織的に中国が育てた台湾にいる協力者が流したんだろうと考えられます。(中略)平和的統一は親中国派の国民党の弱体化が目立って難しくなった。かといって武力による統一は、リスクもあるし国際社会の反発も強い。ということで、軍事演習で武力もちらつかせつつ、フェイクニュースなどで世論を揺さぶる。さらに政財界を含め少しずつ親中派をできるだけ育成して、全体として、もはや中国と一緒になるしか道はないって思わせる。まぁインテリジェンスの力で奪う、これを『智統』といっている」

こうした中国の動きはすでに切迫していて台湾へのサイバー攻撃は2年間で14億回に及んでいるという。『和統』の道がないとするならば『武統』、『智統』、どちらに向かうのか…そして日本の備えとして何が必要なのだろうか。

防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「今アメリカにおける台湾への危機意識って物凄く高いんですよ。ただ、台湾が仮に中国に統一されて困る国ってどこかというと、アメリカでなく日本なんです。仮に台湾が中国の手に落ちたとしても、それから米中関係はいくらでも構築しなおせる。しかし僕たちは、台湾に中国の人民解放軍がいるという状態で新しい防衛体制を考えることになる。だから米中の関係に日本が巻き込まれているという意識でなくて、日本自身の問題としてとらえる。それくらいの切迫感を持つ必要がある」

BS-TBS 『報道1930』8月8日放送より)