「なぜどこのマスコミも報じないのか」
2024年1月25日。前日には雪が舞っていた。寒さの厳しい曇りの日だった。
河野被告の身柄が置かれている松山刑務所に向かう道中、カーラジオからは「京都アニメーション放火殺人事件」の青葉被告に死刑判決が下されたというニュースが、しきりに報道されていた。
「来るの遅かったな」
若い刑務官に付き添われて、河野被告が現れた。アクリル板を挟んで向かい合い座る。面会室が狭いからだろうか、法廷で見た時よりも、背が高く大柄に見えた。しかめたような表情は相変わらずだが、どこか微笑んでいるようにも感じられる。記者と話すことを嫌がっている様子はなさそうだ。
雑談を交わす。体調は悪くないという。そして「電磁波攻撃」はマシになったものの、今も続いていると話す。
「『電磁波攻撃』の存在について、なぜどこのマスコミも報じないのか」
河野被告が切り出してきた。
「弁護士を通じて色々な報道を見たが、どれも精神鑑定の結果であるとか、刑事責任能力の有無であるとか、そういった内容のものばかりだ」
「精神鑑定のせいで、私だけが精神病とされてしまう」
長年、鉄工関係の現場で働いてきたという河野被告。目の前で、表情を変えることなく話すその姿からは「真面目で頑固そうな職人風の中年男性」といった印象を受けた。3人の命を奪うという凶行に及んだ事実が、うまくかみ合わない。