「もう令和の明智光秀とは言われない」

岸田総理と茂木幹事長の溝が決定的となったのは、1月18日、岸田総理がこれまで“三頭政治”として岸田氏を支えてきた麻生副総裁、茂木幹事長に根回しをせず、岸田派の解散を検討する意向を表明した時だった。「岸田さんの自分勝手な決断で、問題のない他派閥にも影響が及ぶ。事前に相談がないなんてあり得ない」。裏金事件を受けて党の政治刷新本部で改革に向けた議論を進めるさなか、また自民党の改革実行本部を主導してきた茂木氏にとって、派閥の領袖という立場が“守旧派”と思われ得る決断を、総理が独断で決めたことは受け入れ難かった。

一方で、茂木氏周辺は「これで茂木さんは動きやすくなった。総理から喧嘩を仕掛けてきたので、もう何をしても明智光秀とはいわれない」と解説する。

総理を支える幹事長の茂木氏は、2012年に当時の石原伸晃幹事長が谷垣禎一総裁を押しのける形で総裁選に出馬し、「平成の明智光秀」と呼ばれたことになぞらえて、「令和の明智光秀」と表現されることがある。しかし、本人は戦国武将でいえば、明智光秀ではなく、「織田信長タイプ」。ホトトギスが鳴くまで待てないし、ホトトギスを無理やり鳴かせることもしない。“極めて合理的”な茂木氏が、この句を詠むとしたら「鳴かぬなら 代えてしまおう 別の鳥」。

一方、茂木氏の合理的な判断が、永田町の世界では「冷たい」「人望がない」と受け取られてしまうことも多い。岸田総理や官邸との溝が深まるにつれて、党内では茂木氏の一つ一つの決断に、本人の思惑以上の陰謀論が囁かれる状況になっていた。

総裁へのカギは“良き土台づくり”?

茂木氏が敬愛する作家・塩野七生氏が著書の題材にしたこともある、イタリア・ルネサンス期の政治思想家、マキアヴェッリ氏の言葉に「自己の戦力に基礎を置かない権力の名声ほど不確かで不安定なものはない」「君主にとって必要なものは良き土台である」とある。

総裁への道のりで、茂木氏にとって“土台”となる自身の政策集団、平成研をまとめきれるかは、大きな課題の1つだ。ある平成研幹部は「今はみんな様子見をしている。茂木さんが幹事長でなくなれば、ぽろぽろ抜けていく可能性がある」と茂木氏の“土台の弱さ”を指摘する。特に平成研に所属する参議院側との確執は大きく、参院中心に一定の勢力が「将来の首相候補」として推していた小渕優子氏が、事前の相談なく平成研を抜けた時には、それに乗じて関口昌一氏が参院全体で平成研から抜けることを画策した。そんな平成研の状況に、永田町のキングメーカー、麻生氏をよく知る議員は「麻生さんが茂木さんのずば抜けた頭脳を認めているのは間違いない。でも自身の派閥をまとめきれなくなったら、総裁選の時は見捨てるよ」と話す。