■「子どもは育てたくないけど、子孫は残したい」


Tさんには、結婚して5年になる妻がいる。精子提供については了承を得ていて、妻との間に、子どもを作る気はないのだという。

Tさん
「お金を子どもに使って、育てたころには自分たちはもう年寄りで。もう何も遊べないというのはちょっと嫌だなと。自分の子どもは育てたくないけど、子孫は残したい」
記者
「無責任だなとは思わないのか」
Tさん
「無責任というか、わがままだなと思っていたことはあります。ただ私としてもしっかり面談をして、子供を育てられる方、しっかり責任を持てる方にのみ提供していますので」

■「採取」は多目的トイレ 「受け渡し」はショッピングモール カジュアルに行われる“命のやりとり”

1時間後、Tさんの車は目的地である提供者の元へと到着した。郊外のショッピングモールで、精子の「受け渡し」をするという。被提供者との信頼関係に差し障るとして、ここから先の撮影はしないよう求め、ひとり施設の中へと消えていった。

Tさん
「私から相手に深入りはしないので、相手の方の名前も知らないですし」
記者
「え?相手の方の名前、知らないんですか?」
Tさん
「はい、そうです。知らない人の方が多いです」
記者
「名前も知らない、素性もあまり分からないということですよね?」
Tさん
「はい」
記者
「そういう方に、自分の遺伝子を渡すことは問題ないですかね?」
Tさん
「名前や個人情報が分からなくても、抵抗はないですね」

20分後、精子の受け渡しが終わり、戻ってきたTさん。提供相手は、関東在住の夫婦。夫側の精子に何らかの問題があるといい、この日が「4回目の提供」だ。
Tさんは、相手から専用の容器を受け取って、多目的トイレで精子を「採取」し、紙袋に包んで受け渡すのだという。


記者
「どんなやり取りを?」
Tさん
「特に何もなく。また今回もお願いします、はい行ってきます、で、戻りました。今後また連絡します、それだけですね」
記者
「命のやりとりが、これほどカジュアルに、気軽に、行われていいのかというのは・・・。私、個人的には率直に思うところがあるんですけれども」
Tさん
「やりとり自体はカジュアルでも、その中から奇跡的な確率で生まれてきて人間が誕生するわけですから、それ自身は特に間違ったことだとは思いません。この少子化の中ですから、時代の流れとして仕方ないことではないでしょうか」