世界1、2位の経済大国、米国と中国はいずれもAIを経済競争の新たな主戦場と見なしている。トランプ米大統領は9月13日、「AIを制する者が勝つ」と宣言した。

問題は、両国が意見の相違を脇に置き、安全で持続可能なAI環境の構築に向けて協力できるかどうかだ。現時点では、双方とも相手の意図を信用しておらず、競争のペースを落とすつもりもない。

米中AI競争における最大級の火種は以下の通りだ。

半導体の密輸と遠隔アクセス

米国は2022年以降、国家安全保障上の理由から、最も高性能なAI半導体の中国向け輸出を規制している。こうした措置が当初の想定ほど機能していないとの認識が広がっている。

米検察当局は、米エヌビディア製の先端AI半導体を中国の顧客に密輸した疑いを巡り、複数の大規模な捜査を進めてきた。これまでで最も注目を集めた事件では、司法省が今年、米スーパー・マイクロ・コンピューターのウォリー・リャオ共同創業者を起訴した。

米国の輸出規制に違反し、エヌビディアの最先端半導体を搭載した米国組み立てのサーバーを中国の顧客に送るのを手助けしたという。リャオ被告は無罪を主張しており、エヌビディアは厳格なコンプライアンス(法令順守)手続きを設けているとしている。

中国のムーンショットAI(月之暗面)が、米国の有力モデルに迫る性能を持つ大規模言語モデル(LLM)「Kimi K3」を公開した際、ホワイトハウス当局者は、同社がエヌビディア製半導体を違法に入手し、タイ経由で遠隔アクセスしていたと非難した。中国政府はこの疑惑を否定している。ムーンショットは回答していない。

Photographer: SeongJoon Cho/Bloomberg

米議員らはまた、中国のAI企業が他国にあるコンピューティング能力を借りることで、輸出規制の抜け穴を利用していると指摘している。現在議会で審議中の超党派法案は、クラウドコンピューティングを通じた中国からのエヌビディア製半導体への遠隔アクセスを制限することを目指している。

米商務省も輸出管理権限を用いて、こうした行為を取り締まる可能性について検討している。

蒸留

米政府は、DeepSeek(ディープシーク)やムーンショット、北京智譜華章科技(Z.AI)などのAIスタートアップに加え、アリババグループのAI部門など中国企業6社が、「産業規模」の蒸留(distillation)と呼ばれる手法を用いて米国の有力AIモデルの能力を再現していると非難している。

蒸留は広く使われている技術で、はるかに大規模で複雑かつ高性能なモデルの推論や振る舞いを模倣して小型モデルをつくり、コストと時間のかかる学習を省く手法だ。問題となるのは、これが許可なく行われる場合だ。中国政府は、こうした非難には根拠がないとしている。

この問題で妥協点を見いだすのは難しい。米中はどのような行為が不適切な蒸留に当たるのかについて認識を一致させた上で、証拠を収集し、無許可のモデル抽出が行われたかどうかを確認する仕組みに合意する必要があるためだ。

存亡に関わるリスク

今年は複雑な作業を独力で完遂できるAI「エージェント」が登場し、AIシステムが人間の介入をほとんど必要とせず自らを改良し始めた。これを受け、AIが高度化し過ぎて人間には制御できなくなるのではないかとの懸念が業界全体で急速に広がっている。

業界の有力者らは、新たな安全策が導入されなければ、AIがデジタルエコシステム(生態系)に計り知れない被害をもたらし、人類を脅かす可能性さえあると警告している。

対話型AI「Claude(クロード)」を展開する米アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は9月前半、3800語に及ぶ論考でAIが人類の存亡に関わる脅威をもたらすと警告し、安全性を巡る議論を一段と活発化させた。

アモデイ氏は、最先端モデルがもたらすリスクをより深く理解するため、同社の開発ペースを落とすと表明。「ChatGPT」の開発元OpenAIを含む米国の競合企業も同様の措置を講じると約束した。

ダリオ・アモデイ氏

アモデイ氏はまた、AIに対する政府規制の強化を求めたほか、AIの安全性を巡る国際的な取り組みを米政府が調整する必要があるとの考えを示した。米企業がより慎重な開発ペースに転じても、シリコンバレーの中国の競合企業はそうしない可能性があるとの懸念が背景にある。

アモデイ氏の主張に対し、トランプ氏は強く反発した。AIに新たな安全策を設けるよう求めた同氏の見解を退け、存亡に関する警告を「デマ」と一蹴した。

中国当局もアモデイ氏の論考に強く反発し、「恐怖をあおっている」と批判するとともに、米AI企業が「悪意ある競争」をしていると非難した。

アモデイ氏は、中国のAI企業が半導体など重要機器を入手できないよう米国の輸出規制を強化することを支持しており、以前から中国政府の反発を招いてきた。最新の論考でもこの主張を改めて示した。

一方、中国も独自に安全性への懸念を表明しており、アンソロピックの「Mythos(ミュトス)」モデルが持つサイバー能力が中国の利益を狙う兵器として利用される可能性などを挙げている。

最先端AIの覇権を巡る猛烈な競争のペースを抑える可能性のある枠組みを両国が構築するには、大幅な信頼醸成が必要になる。どのようなAIシステムを安全でないと見なすのか、あるいはその能力が制御可能な限界を超えた場合にどう対処するのかについて合意する必要がある。

当面は、被害の軽減が協力可能な分野の一つとなり得る。米中は、重要インフラへの攻撃や新たな生物兵器の設計に悪用する可能性があるサイバー犯罪者やテロリストの手に、高性能AIモデルが渡らないよう協力できる可能性がある。

一部の安全保障専門家は、制御不能になったAIエージェントが一国の核指揮システムに侵入したり、サイバー攻撃を引き起こし、攻撃を受けた政府が意図的な攻撃だと誤認したりする可能性に備えるよう、米中両政府に求めている。

提案の一つは、AIが引き起こした攻撃について一方の政府がもう一方に警告できるホットラインを設置することだ。ホワイトハウスによれば、9月下旬にワシントンで開かれたトランプ氏と中国の習近平国家主席の首脳会談で、両国はAIの「リスクと恩恵」について意見を交換する2国間対話を創設することで合意した。

AIヒューマノイド

AIを搭載し、物理的な環境をより自在に移動・行動できる商用ヒューマノイド(人型)ロボットの実現を巡る競争が進んでいる。ロボット工学では米企業が多くの大きな進歩を遂げてきたが、ヒューマノイドロボットの商用利用を広く普及させる取り組みでは現在、中国企業が急速に前進している。中国は、こうした製品の欧米市場へのアクセス拡大を望んでいる。

中国の低コストなAIモデルが米国の競合モデルに対して存在感を高めている 

これに対し、米国は国家安全保障を理由に、中国製のヒューマノイドロボットと四足歩行ロボットの輸入を制限している。また、2027年1月には、米国の防衛請負企業が、中国で採掘または精製、分離、溶解、生産された幅広い原材料を調達することを禁じる調達規則が発効する予定だ。他国でのこうした原材料の増産を促す狙いがある。

中国は昨年、米国の複数の産業に不可欠な鉱物の供給で圧倒的な地位を占めていることを、トランプ政権との関税を巡る対立で交渉材料として利用できた。

国際エネルギー機関(IEA)やジェームスタウン財団の専門家らによると、中国はレアアース(希土類)磁石や、ヒューマノイドを大規模生産するのに必要なアクチュエーター(駆動装置)部品を含むハードウエア供給網の重要な複数分野で約80%を支配している。

イーロン・マスク氏率いる米テスラのヒューマノイドロボット事業「オプティマス」は、中国による磁石輸出規制の影響をすでに受けている。最終的に妥協が成立した場合でも、ヒューマノイドの2国間貿易が本格化するには、人間の近くで作業するロボットの安全基準について双方が合意する必要がある。

軍事AI

米国のテクノロジー輸出規制は、中国人民解放軍が戦場で優位に立つ可能性のある米国製の最先端AI半導体を入手するのを阻止することも目的の一つとしている。

中国の軍事計画は極めて秘密性が高いものの、何を優先しているかは明確だ。人民解放軍を支援する少なくとも七つの大学研究機関が、エヌビディア製の先端半導体の入手を試みている。

関心を示している機関のうち、北京航空航天大学と西北工業大学は、人民解放軍への支援に特化した中国の精鋭大学群「国防七子」に数えられる。

2025年に北京で行われた軍事パレード

原題:Five Ways the US and China Clash Over AI: Explainer(抜粋)

--取材協力:Michael Shepard、Wendy Benjaminson.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.