日銀は「金融環境」を見ると言いながら、結局は株価と為替を見ることに

植田総裁は9月18日の決定会合後の記者会見で、金融環境を①金利、②銀行貸出、③資産市場(株価・為替)の三つの側面から評価していると説明した。

その上で、植田総裁は「そのうちの金利周り、特に長期とか超長期のところはかなり引き締まってきている。残りの二つのチャネルが少しまだ緩和的であるということでありますが、引き続きこれがどうなるかというのは丁寧にみていきたいと思いますが、あまり急激に政策金利を引き上げて、financial conditions が、特に銀行貸出周りとか、資産価格周り、大幅な調整が起こるということ、それによるマイナスを避けるという観点もある程度は重要かというふうに思っております」(日銀資料)と述べた。

表面的にはバランスの取れた説明に聞こえる。

長期金利については既に十分上昇している。したがって、次の焦点は銀行貸出となるが、銀行貸出は景気悪化に対して遅行する可能性がある。

確かに、教科書的には「金利上昇⇒資金需要の減少(貸出減)⇒投資・消費の減少⇒景気減速」というパスが存在する。
しかし、「金利上昇⇒景気悪化⇒資金繰り懸念⇒資金需要の増加(貸出増)⇒不良債権の増加⇒貸出減⇒景気減速」というパスも生じ得る。
また、足元では金利が上昇しているため、収益拡大のために銀行が貸出に積極化しているという指摘も少なくないため、状況はより複雑である。貸出残高そのものだけではなく、その増加の背景を見極めることも重要である。

むろん、日銀は様々な観点から分析を進めると予想されるが、少なくとも貸出動向だけで判断することは容易ではない。そうなると残るのは資産市場しかない。

日銀は対外的には、株価を見て金融政策を決めているとは言わないだろう。しかし実際には、株価が崩れなければ「金融環境はまだ緩和的」と判断され、株価が大きく下落すれば「引き締め効果が出始めた」という議論になっていく展開を想定せざるを得ない。

政策金利よりも株価の方が金融環境を雄弁に語ってしまう状況になっているのである。政策金利が未踏の領域に達する中、日銀は否応なくマーケットの顔色をうかがわざるを得なくなっていくだろう。

米国の「強い消費」の正体は株高で、株価が崩れればシナリオも崩れる

同様の構図は米国でも見られる。

現在の米長期金利上昇について、市場では①経済が強いから金利が上がるのか、②債務問題や財政不安で金利が上がっているのか、という議論が続いている。しかし、どちらの解釈であれ最終的な焦点は株価に行き着くだろう。

というのも、米国の個人消費は所得の伸びだけでは説明できない状況が続いている。労働市場の軟化とインフレの高止まりにより、実質可処分所得の伸びは鈍い。一方で、個人消費はそれを上回るペースで推移している。その背後には、株高による資産効果があると考えるのが自然である。家計は所得だけではなく、保有する株式や投資信託の価格上昇を背景に消費を続けている公算である(資産効果)。

皮肉なのは、これまでも高金利の悪影響を打ち消してきた要因もまた株高だったことである。本来であれば5%を超える長期金利は景気に大きな下押し圧力を与えるはずだが、コロナ後は株価が上昇し続けた結果、消費は底堅く推移した。

株価が上昇している限り、資産効果によって消費は支えられる。逆に株価が下落すれば、資産効果が剥落し、高金利の悪影響が一気に表面化する可能性がある。この意味で、今後の米金利の方向性やFRBの政策判断も、最終的には株価動向に大きく左右される可能性が高い。

中央銀行が相場を追いかける時代

本来、市場は将来の経済を映す鏡である。しかし現在は、株価そのものが消費や投資行動を左右し、経済を動かす存在になりつつある。

また、教科書的な世界では、中央銀行が政策金利を動かし、その結果として株価や為替が反応する。しかし足元の日米では、その因果関係が逆転しつつある。

振り返れば、2010年代以降の金融政策は資産価格を押し上げることで景気を支えてきた。その結果として、今や中央銀行自身が資産価格に振り回される立場になっている。

これは量的緩和時代が残した皮肉な後遺症なのかもしれない。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)