黄金時代からアジア通貨危機、そして政治の混乱へ

タイは1960年代に工業化を推し進め、農業中心の低所得国から製造業大国へと変貌しました。

特に1990年代初頭は、年率8%から9%という驚異的な経済成長を遂げた黄金時代でした。

人々は消費を謳歌し、貧困から抜け出して豊かな国への道を歩んでいるかに見えました。

しかし、金融機関の過剰なリスクテイクにより不良債権と巨額の経常赤字が膨らみ、1997年に「アジア通貨危機」が勃発します。通貨バーツの価値は半分以下に暴落し、銀行は破綻、数百万人が職を失うという深い傷跡を残しました。

この危機を立て直すべく登場したのが、タクシン・シナワット元首相です。

国内最大の携帯通信会社を創業した彼は、絶大な人気と富を背景に経済を再び成長軌道に乗せました。しかし、その台頭は上級官僚やビジネスエリート、裁判官などで構成される「既得権益層」にとって大きな脅威となりました。

彼らは1932年の立憲君主制移行以来、国の強力な機関を支配してきた層です。

そして2006年、タクシン氏は軍事クーデターによって失脚。

これを機に、民主化勢力とエリート層の数十年にわたる激しい権力闘争が幕を開けました。

タイが民主国家となって以来、実に13回ものクーデターが成功し、憲法は約20回も改正されています。

過去20年間、タクシン派の首相が選挙で選ばれては裁判所や軍によって追放されるという事態が繰り返されてきました。

この絶え間ない政権交代により、投資家が求める「政策の継続性」は失われ、意味のある経済改革が実行されないまま時間が過ぎてしまったのです。